実際、人名用漢字部会が公開した578字の追加案(平成16年6月11日)には含まれていなかったのに、その後、法務省が「常用平易」だと認めて、新たに子供の名づけに使えるようになった漢字は、37字もあります。
- 俠・掬・瘦 (平成16年9月27日)
- 祷・穹 (平成21年4月30日)
- 彙・鬱・楷・諧・毀・嗅・惧・憬・錮・傲・恣・摯・羞・箋・踪・緻・嘲・捗・貪・丼・氾・訃・璧・哺・麺・喩・瘍・沃・拉・辣・慄・籠 (平成22年11月30日)
人名用漢字部会だって、万能ではないのです。人がおこなう調査には必ず漏れがありますし、それに加えて「常用平易」という概念そのものが、時代に応じて変化していくものなのです。
平成23年5月10日、さいたま家庭裁判所は、「浚」が戸籍法第50条でいうところの「常用平易」な文字であると判断し、「浚義」ちゃんの出生届を受理するよう、さいたま市南区長に命令する審判を下しました。両親の「全面勝訴」です。しかし、南区長は、この審判を不服とし、東京高等裁判所に即時抗告[平成23年(ラ)第1012号]をおこないました。あくまで、「浚」は「常用平易」ではない、と主張したのです。南区長の抗告理由書(平成23年6月14日)を、少し見てみましょう。
人名用漢字部会においては,まず,人名用漢字に含まれていないJIS第1水準の漢字計770字から「漢字出現頻度数調査(2)」に現れた出版物上の出現頻度に基づき,出現順位3012位以上の漢字503字について「常用平易」と認めるのを相当と考え選定された。この出現順位3012位というのは,調査の対象書籍385誌における出現回数が200回以上のものであり,これは平均すると過半数の書籍に出現する漢字ということができる。
それ以外のJIS第1水準の漢字及びJIS第2水準以下の漢字については,上記出現頻度のほか,追加要望法務局が6以上で常用平易性を認めるなど,実際の戸籍取扱窓口における追加要望の有無・程度などを総合的に考慮して,計75字を選定した。本件で問題となっている「浚」は,JIS第2水準ではあるが,いずれの基準も満たさなかったため,検討の結果,上記578字(503字と75字の和)には入らなかった。
抗告理由書のこの部分には、微妙に嘘が含まれています。578字の追加案をチェックすれば、すぐわかることなのですが、この578字のうち、JIS X 0213の第1水準漢字は521字、第2水準漢字は37字、第3水準漢字は20字です。人名用漢字部会は、第2水準漢字から、煌・絆・遙・橙・萬・曖・刹・檜・已・凉・蕾・徠・苺・凛・琥・珀・萠・稟・凰・禮・櫂・實・麒・釉・榮・槇・珈・堯・圓・惺・昊・逞・梛・羚・晄・驍・俐の37字しか、追加候補を選ばなかったのです。第2水準漢字というのは、そんなにも「常用平易」ではないものなのでしょうか。
(第3回につづく)