見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦(にしき)なりける
出典
古今・春上・五六・素性法師(そせいほふし)
訳
はるかに見渡すと、緑の柳と薄紅の桜をまじり合わせて、ほかならぬこの都こそが、春の錦(の織物)だったのだ。
注
「都ぞ春の」の「ぞ」は、強調の係助詞。「都が」の意を強めている。「錦なりける」の「ける」は、気づきの助動詞の連体形。はじめて気づいたという驚きを表す。
参考
『古今和歌集』の詞書(ことばがき)によれば、都に近い山に行き、都の春景色を一望して詠んだ歌である。和歌の世界において「錦」といえば、秋山の紅葉をさすのがふつうである。作者は、その「秋の錦」に対して、「春の錦」があるとしたら、それは何なのだろうと考えていた。そして、都の春景色を一望して、自分の住むこの都こそが、さがし求めていた「春の錦」だったのだ、と気づき驚いているのである。
(『三省堂 全訳読解古語辞典〔第四版〕』「みわたせばやなぎさくらを…」)