人名用漢字の新字旧字の「曽」や「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。
戸籍法と戸籍法施行規則
戸籍法第50条は、子供の名づけに使える文字を、以下のように規定しています。
第五十条 子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。 2 常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。
戸籍法施行規則第60条では、子供の名づけに使える文字を、以下のように制限しています。
第六十条 戸籍法第五十条第二項の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。 一 常用漢字表(昭和五十六年内閣告示第一号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。) 二 別表第二に掲げる漢字 三 片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)
つまり、法律である戸籍法が「常用平易」という大枠を決めて、法務省令の戸籍法施行規則が、それを常用漢字と「別表第二に掲げる漢字」(人名用漢字)に制限している、という二段構えになっています。
しかも、この二段構えには、実は隙間があります。「常用平易」であるにもかかわらず、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字、というのが存在し得るからです。言い換えると、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字であっても、戸籍法に沿って「常用平易」であると認められれば、子供の名づけに使ってよい、ということになるのです。ただし、そういう漢字を子供の名づけに認めてもらうためには、行政の場である市役所(区役所・町役場・村役場)ではなく、司法の場である裁判所の判断が必要なのです。では、どこの裁判所に行けばいいのでしょう。
家庭裁判所に不服を申立てる
戸籍に関する事件は、家庭裁判所の家事審判にあたります。地域(市役所の住所地)を管轄する家庭裁判所を調べて、そこの家事審判に関する手続案内窓口に出向きましょう。「市町村長が出生届を受理してくれなかったので不服を申立てたい」というのが、あなたの家事審判の概要ということになりますので、申立てに必要な書類やその書き方について、窓口で相談しましょう。申立てに必要な費用(通常は収入印紙800円分)と予納する郵便切手(審判書などを郵送してもらう)についても、その時に相談しておくといいでしょう。
申立てに必要な書類などが準備できたら、家事審判申立書を書くことになります。申立書の『事件名』は通常「市町村長の処分に対する不服」になります。『申立ての趣旨』は、端的には「市町村長が出生届を受理するよう審判を求める」という内容になるはずです。問題は『申立ての実情』ですが、これは、次回(第4回)にいたしましょう。