人名用漢字の新字旧字の「曽」や「祷」の回を読んだ方々から、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけたいのだが、どうしたらいいのか、という相談を受けました。それがどれだけ大変なことかを知っていただくためにも、あえて逆説的に、「人名用漢字以外の漢字を子供の名づけに使う方法」を、全10回連載で書き記すことにいたします。
過去の判例を集める
前回(第1回)書いたのですが、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を含む出生届は、裁判所の命令がないかぎり受理できません。逆に言うと、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を含む出生届であっても、裁判所の命令があれば、市役所(区役所・町役場・村役場)は受理せざるを得ない、ということです。では、どうすれば、裁判所にそういう命令を出してもらえるのでしょう。
実は、裁判所というところは、基本的に前例主義です。つまり、過去の判例に、かなりの部分しばられている、ということです。ですので、過去に裁判所がそういう命令を出した判例があれば、その判例に沿ったやり方で、常用漢字でも人名用漢字でもない漢字を子供に名づけることができる、ということになります。過去の判例は法律雑誌に掲載されていますので、まずは、それらの雑誌のコピーを集めましょう。
最近のものとしては、大阪高等裁判所が子供の名づけに「祷」を認めた判例が、『民事月報』2008年5月号(63巻5号)の96~140ページに載っています。あるいは、大阪高等裁判所が「穹」を認めた判例が、同じ『民事月報』2008年5月号(63巻5号)の141~172ページに載っています。認められなかった例としては、仙台高等裁判所が「隆」を却下した判例が、『家庭裁判月報』2006年12月号(58巻12号)の58~82ページに載っています。かなり重要なものとしては、最高裁判所第三小法廷が「曽」を認めた判例が、『最高裁判所民事判例集』2003年12月号(57巻11号)の2562~2590ページに載っています。
これらの雑誌のコピーを手に入れるには、国立国会図書館の遠隔複写サービスを利用するのが確実です。あるいは、これらの法律雑誌は、大学の法学部の図書室が多く所蔵していますので、地域の図書館に相談して、それらの図書室への閲覧紹介状(複写を含む)を書いてもらうという手もあるでしょう。
コピーが手に入ったら、過去の判例をしっかり読んでみましょう。そうすれば、裁判所の判断基準は、その漢字が「常用平易」であるか、だということがわかるはずです。でも、どうして「常用平易」が判断基準なのか。それについては、次回(第3回)にいたしましょう。