人名用漢字の新字旧字

特別編:干支と人名用漢字

筆者:
2017年1月5日

今年2017年の干支は、丁酉(ひのととり)。さて、干支すなわち十干十二支の漢字は、子供の名づけに使えるのでしょうか。

十干は、甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)・丁(ひのと)・戊(つちのえ)・己(つちのと)・庚(かのえ)・辛(かのと)・壬(みずのえ)・癸(みずのと)の漢字が、10年周期で巡っています。十二支は、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)の漢字が、12年周期で巡っています。これら22の漢字のうち、当用漢字表に含まれていたのは、甲・乙・丙・丁・己・辛・子・午・未・申の10字だけでした。1948年1月1日の戸籍法改正で、残りの12字(戊・庚・壬・癸・丑・寅・卯・辰・巳・酉・戌・亥)は、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。ちなみに、1948年の干支は戊子(つちのえね)でした。

1951年5月14日、国語審議会は人名漢字に関する建議を発表し、丑・寅・卯・辰・巳・酉・亥を含む92字を、子供の名づけに使えるよう提案しました。翌週25日、この92字は人名用漢字別表として内閣告示され、結果として、十二支の漢字のうち戌を除く11字が、出生届に書いてOKとなりました。ちなみに、1951年の干支は辛卯(かのとう)でした。

2004年3月26日、法制審議会のもとで発足した人名用漢字部会は、「常用平易」な漢字であればどんな漢字でも人名用漢字として追加する、という方針を打ち出しました。この方針にしたがって人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(2004年2月20日改正版)、文化庁が表外漢字字体表のためにおこなった漢字出現頻度数調査(2000年3月)、全国の出生届窓口で1990年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。戊はJIS第1水準漢字で、漢字出現頻度数調査の結果が260回でしたが、全国50法務局中で出生届を拒否された管区はありませんでした。庚は第1水準漢字で、頻度数が271回で、4つの管区で出生届を拒否されていました。壬は第1水準漢字で、頻度数が418回で、5つの管区で出生届を拒否されていました。癸は第2水準漢字で、頻度数が135回で、1つの管区で出生届を拒否されていました。戌は第2水準漢字で、頻度数が193回で、出生届を拒否された管区はありませんでした。

2004年9月8日、法制審議会は人名用漢字の追加候補488字を答申しました。この488字には、戊・庚・壬が含まれていましたが、癸・戌は含まれていませんでした。癸と戌は「常用平易」だと認められなかったのです。9月27日の戸籍法規則改正で、これら488字は全て人名用漢字に追加されました。この結果、干支の漢字22字のうち20字が、出生届に書いてOKとなりました。癸と戌は、現在も子供の名づけに使えません。癸戌(みずのといぬ)という干支が存在しないことが、不幸中の幸いと言えるでしょう。ちなみに、2004年の干支は甲申(きのえさる)でした。

なお、西暦から干支を計算する場合は、甲子(きのえね)は西暦を60で割った余りが4になる、ということを覚えておくと便利です。それはすなわち、十干が甲の年は西暦の末尾が4で、十二支が子の年は西暦を12で割った余りが4だということです。ただし、太陰暦と西暦はピッタリ一致しないので、その点は注意して下さいね。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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