三省堂辞書の歩み

第20回 帝国地名辞典

筆者:
2013年9月11日

帝国地名辞典

明治45年(1912)6月25日刊行(上巻・下巻)
明治45年(1912)7月14日刊行(索引)
太田為三郎編/本文1689頁+「朝鮮」53頁(上巻874頁、下巻815頁+53頁)/四六倍判(縦261mm)

【帝国地名辞典】1版(明治45年)

skid20_1_l.png

【本文1ページめ】

『帝国地名辞典』は、語学系の辞書を出版してきた三省堂にとって初めての専門事典である。編者の太田為三郎は帝国図書館に勤務し、『日本随筆索引』(明治34年)など索引類の編著があった。本書は、起稿から15年を費やして完成したという。

大部分は独力で執筆したものであるが、かつて農商務省地質調査所にいて全国を踏査した東条勝友から助言を得ており、校正では田内八百久万・三浦哲郎らの協力があった。また、朝鮮については吉田英三郎の著作を参照している。

当時、主要な地名辞典は吉田東伍の『大日本地名辞書』(明治33~40年)、大西林五郎の『実用帝国地名辞典』(同34年)、富本時次郎の『帝国地名大辞典』(同35~36年)などが刊行されていた。

『大日本地名辞書』は全国を道・国・郡の順に配列し、各郡内は「郷」に分けて詳述している。地域別に地名を掲載してあるので、早く引くには索引を利用する必要がある。辞書というよりは「地誌」であり、歴史地理学的な研究書として現在でも名高い。

『実用帝国地名辞典』は、すべての項目を五十音順に配列してあるが、府県名ではなく旧国名を使っている。実用性を重視し、付録の統計類に特色があるものの、一巻本のため本文の情報量は少ない。

『帝国地名大辞典』は、第一巻「府県・国・郡・市・区・町・村・都会」、第二巻「山谷・鉱山・河渠・沼湖・原野・瀑布・鉱泉」、第三巻「港湾・岬角・島嶼・海洋・暗礁・駅路・鉄道駅・神社・寺院」、第四巻「山陵・墓碑・城址・古戦場・名勝古跡・生産・雑録・統計」に分類。各分野のなかで、頭字のみによる五十音別にしている。

本書『帝国地名辞典』の特色は、まず、すべての項目を五十音順とし、別冊の索引に漢字索引と内容索引(記事中の神社・仏閣・城址・陵墓・温泉・名跡などの検索)を設けて引きやすくしたこと。そして内容においては、人口などのデータを載せ、現代的な情報を盛り込んでいること。

たとえば、国郡の記事は地勢・山系・水系・海岸・気候・産業・公通・沿革の順により、主として自然地理に重きを置く。府県の記事では、さらに教育・行政および財政・都会・名所・旧跡・社寺などを加え、政治地理に重きを置いたものになっている。

日露戦争(明治37~38年)の後、鉄道は国有化による整備が進められ、また、汽船やバス・自動車の増加もあって人々の移動はより活発になっていった。そうしたなか、近代的な地名辞典として本書は生まれたのである。

●本文最終ページ

skid20_3_l.jpg

●「朝鮮」最初と最後のページ

skid20_2_l.jpg
skid20_4_l.png

◆辞書の本文をご覧になる方は

⇒近代デジタルライブラリー『帝国地名辞典』のページへ

上巻 //kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/762292
 下巻 //kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1086068
 索引 //kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/762294

筆者プロフィール

境田 稔信 ( さかいだ・としのぶ)

1959年千葉県生まれ。辞書研究家、フリー校正者、日本エディタースクール講師。
共著・共編に『明治期国語辞書大系』(大空社、1997~)、『タイポグラフィの基礎』(誠文堂新光社、2010)がある。

編集部から

2011年11月、三省堂創業130周年を記念し三省堂書店神保町本店にて開催した「三省堂 近代辞書の歴史展」では、たくさんの方からご来場いただきましたこと、企画に関わった側としてお礼申し上げます。期間限定、東京のみの開催でしたので、いらっしゃることができなかった方も多かったのではと思います。また、ご紹介できなかったものもございます。
そこで、このたび、三省堂の辞書の歩みをウェブ上でご覧いただく連載を始めることとしました。
ご執筆は、この方しかいません。
境田稔信さんから、毎月1冊(または1セット)ずつご紹介いただきます。
現在、実物を確認することが難しい資料のため、本文から、最終項目と「猫」「犬」の項目(これらの項目がないものの場合は、適宜別の項目)を引用していただくとともに、ウェブ上で本文を見ることができるものには、できるだけリンクを示すこととしました。辞書の世界をぜひお楽しみください。
毎月第2水曜日の公開を予定しております。