常用漢字の字引
大正12年(1923)7月6日刊行
三省堂編輯所編/本文226頁/三五判変形(縦133mm)
本書の表紙・本扉・内題の書名には「文部省国語調査会査定」の角書がある。この調査会とは、原敬総理大臣のもと、大正10年に発足した臨時国語調査会のことで、当初は森鷗外が会長だった。大正11年に鷗外が他界したあと、34名の委員のうちから東京帝国大学教授の上田万年が後任を務めた。
臨時国語調査会は最初に漢字調査を行い、大正12年5月に「官報」で「常用漢字表」と「略字表」を発表した。それをもとに、いち早くコンパクトな漢字辞典として出版したのが、この『常用漢字の字引』である。
本書は常用漢字1962字、常用略字154字、計2116字(ただし通し番号の最後は2115)の字義を載せているが、熟語はない。音が複数ある場合に限り、「読例」として熟語を載せた。また、各漢字の草書体も載せている。
漢字の配列は総画数順で、同画数内は『康熙字典』の部首順とする。巻頭には部首順の「常用漢字と略字」を一覧として掲載。巻末には「発音索引」があり、ほかに「部首の順序」「部首の名称」「字音仮名遣一覧」がある。
本書の語釈は口語体を用いて、尋常小学校3年生程度にも理解できるよう努めている。また、凡例では「略字表」に則り、「国・学・総・数・発・仮・釈・様」といった略字が使われた。さらに「画・号・従・来」など、今の常用漢字体とは若干異なる略字も見られる。
この時代の常用漢字表は、現代の「目安」とは違い、「本表ニナイ漢字ハ仮名デ書ク」という指針が示されていた。当時の新聞・雑誌・出版業界の多くが支持する方向にあり、大正12年7月に「漢字整理期成会」が発足する。ところが、同年9月の関東大震災によって、実施が見送られることになってしまったのである。その後、新聞社は独自路線を進み、大阪の新聞社が2490字を、東京の新聞社が2108字を選定した。
《余談》家蔵本には、ロンドンにあった東洋・アフリカの専門書店の紙片が貼られている。ロンドンで本書を買い求めたイギリス人が日本へ携えて来た本なのかもしれない。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目