三省堂英和大辞典
昭和3年(1928)3月1日刊行
三省堂編輯所編纂/本文2634頁/菊判変形(縦197mm)
三省堂は明治21年(1888)の『ウヱブスター氏新刊大辞書 和訳字彙』以降、専門用語を充実させた英和辞典を目指し、改訂を続けていた。『日本百科大辞典』(明治40年~大正8年)を作ったのも、あらゆる専門分野の訳語を確かなものにするための一環だったという。そして、大正8年(1919)の『模範新英和大辞典』をさらに大改訂することによって完成したのが本書である。
『三省堂英和大辞典』には、4頁にわたって「術語分担執筆者」が100名余り掲載された。執筆者のひとりだった坪内逍遥の手沢本は早稲田大学図書館に残されている。
編集を担った三省堂編輯所の代表は、同年4月に還暦を迎える斎藤精輔だった。「巻頭の辞」にも4頁を費やし、「編者は茲に前後四十年間を俯迎して無量の感慨に禁へざると共に多年執筆の諸大家に対し深甚の敬意と無限の謝意とを表するものなり」と結んでいる。
同規模の英和辞典は、前年に岡倉由三郎編『新英和大辞典』(研究社)が出ていた。研究社がイギリス・オックスフォード系の語学的な辞書を手本としたのに対し、三省堂はアメリカ・ウェブスター系の百科的な辞書を目指したのである。そのため、英語の書名には「ENCYCLOPÆDIC」が入っている。
発音は、見出し語に表示するウェブスター式だった。複雑な場合だけ国際音声記号を補足してある。前付には、ウェブスター新国際辞典、センチュリー辞典、ニュースタンダード辞典、オックスフォード英語辞典、そしてジョーンズ式の5つを比較した「発音符号表」が掲載された。
大正11年(1922)の『袖珍コンサイス英和辞典』や他社の英和辞典がのきなみ国際音声記号(ジョーンズ式)を採用したにもかかわらず、守旧的な方式に留まっていたのである。なお、本書をもとに約1000頁減らして作られた『センチュリー英和辞典』(昭和8年)ではジョーンズ式が採用されている。
語釈は、従来どおりカタカナ交じり文で表記されていて、外来語は平仮名だった。『模範新英和大辞典』と比較すると、「猫」の意味分類は6つから9つに増え、「犬」のほうは7つから9つとなった。さらに、熟語(成句)は大幅な増加を見せている。
ところが、内容を充実させたものの一般には向かない専門的傾向のせいか、売れ行きは思わしくなかった。『三省堂の百年』では「結果的には余り売れず、在庫消化に五、六年を費やした」と記されている。
●最終項目
Zyz.(自)〘英国Yorkshire〙. ヒュートイフ,シュートイフ.
●「猫」の項目
●「犬」の項目