新訳和英辞典
昭和4年(1929)10月25日刊行
三省堂編輯所編纂/本文1502頁/三六判変形(縦190mm)
三省堂は明治42年(1909)に井上十吉編『新訳和英辞典』を刊行した。同規模の和英辞典としては20年ぶりの刊行となり、書名は同じままである。ただし、英語の書名に「COLLEGE」が加えられた点が異なる。
本のサイズは、縦が22mm大きくなり、横も10mmほど広い。1段組だったのを2段組に変えて、活字は小さくなったが、非常にすっきりした印象である。
外来語の見出しはローマ字を使わず、カタカナ表記にする工夫が見られる。
一方、本文の漢字ひらがな交じり文は、漢字カタカナ交じり文になった。その文中に外来語があった場合、逆にひらがな表記となる。小書き仮名も用いられているが、「ウ」を小さくすることはなく、「ッ・ャ・ュ・ョ」だけである。
序文によると、無理な日本語や無理な英語を除去し、日常の文章・会話にどう用いられるかを考え、実例に含まれる見出し語の意味を玩味してから徐々に訳語を選出したという。したがって、「会える」「飲まれる」といった、可能表現や連語の見出しも立てている。
また、当時の国語辞典に載っていない見出し語も見られる。たとえば、「油ぎった」「油くさい」は『小辞林』(昭和3年)にはない。「アドレス」は、『小辞林』に「宛名。所書」とあるが、本書ではゴルフ用語として扱い、例文は「ごるふ棒デ球ヲあどれすスル」である。
同様の「あばよ」「えへん」「ちょっくら」などは、前著から見出しになっているものの、訳語や文例が増えたりした。全面的な改訂にもかかわらず、書名が変わっていないのが不思議に思えるほどだ。
和英辞典は、大正7年(1918)に『武信和英大辞典』(研究社)、大正10年(1921)に『井上和英大辞典』(至誠堂)、大正13年(1924)に『スタンダード和英大辞典』(宝文堂)というライバルが現れ、さらに文例が豊富な『斎藤和英大辞典』(日英社)が昭和3年(1928)に出た。大型の和英辞典が続出するなかで本書は学生向けを意識して作られたが、他社にない漢字カタカナ交じり文にしたのは差別化を図りたかったのかもしれない。
●最終項目
●「猫」の項目
●「犬」の項目