これまで、方言グッズを「もてなしの方言」「おいしい方言」と分類して紹介してきました。今回は、「いやしの方言」を福井県のグッズを例にあげて紹介します。
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「息子へ たまには連絡しねま! 心配してるんやでの。」(息子へ たまには連絡しなさい。心配しているからね。【写真1】)
「お父さんへ あんまり無理せんとの。ぼちぼちでいいさけ。」(お父さんへ あまり無理をしないでね。ゆっくり少しずつでいいから。【写真2】)
「ご飯食べてるか? 体に気をつけてがんばっての。」(ご飯、食べてる? 体に気をつけてがんばってね。【写真3】)
【写真1】から【写真3】までを見てグッとこない人は少ないでしょう。共通語より、方言のほうがずっと感情を揺り動かす力があると思いませんか。心の琴線に触れる力です。自分の出身地の方言でなくても泣けてくるのは、どうしてでしょうか。
かつて、テレビ番組で遠く離れたところに進学や就職をした息子や娘に、両親が作業中の田んぼから、テレビを通じて、地元ことばでメッセージを送るという企画があったのを思い出しました。あまりよく理解できない方言での呼びかけであっても、心なごむ思いをしました。
Gooブログで検索すると方言の評判が出ています。話題にしている人は、女性が多いのですが、方言をポジティブ(プラス・好き)に評価している人は、76%でした。理由は、「かわいい」「いい」「おもしろい」「ささる」「ありがたい」というものです。「ささる」は、前述の「心の琴線に触れる力」にあたるものでしょう。最近、病院の治療や学校教育に方言の紙芝居や絵本を採用するところが広がっているとのことです。個別にみると、東北弁がポジティブと評価した人は、83%、九州弁78%、関西弁66%、東京弁56%でした。東京弁については、「上から目線に聞こえる」というネガティブな評価が見られました。東京からより離れた文化的距離にある方言ほど高く評価されているという傾向が見られます。
福井県の方言手ぬぐい【写真4】の西方横綱に「だんね」(差し支えない)ということばがあります。借りたお金を返すのが来週になるときなど「来週でも差し支えないよ」と言われるより、「ああ、来週、だんね、だんね」と言ってもらうと許されてホッとします。
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。