地域語の経済と社会 ―方言みやげ・グッズとその周辺―

第174回 山下暁美さん:めげねぞ!! 福島

筆者:
2011年10月29日

東日本大震災から約7か月が過ぎました。各地で復興祭が行われています。福島県の復興に対する意気込みがようやく言語表現の形でも見られるようになりました。最近、福島県を訪れると、「めげねぞ!! 福島」(【写真1】めげないぞ)、「復興にむけてがんばっぺ」(がんばろう)、「応援ありがとう、がんばる福島」、など、将来を見つめる姿勢がうかがえるキャッチフレーズをみかけます。このように方言は、地元の人々の気持ちを強く束ねるのに威力を発揮します。また、強い主張にもパンチを添えます。

【写真1 めげねぞ!! 福島】 【写真2 がんばっぺ!福島 いいとこいっぱいあっつぉい】
左:【写真1 めげねぞ!! 福島】
右:【写真2 がんばっぺ!福島 いいとこいっぱいあっつぉい】

福島では、商店街を「福の島」と名づけて「がんばっぺ!福島! いいとこいっぱいあっつぉい」と呼びかけました。「いいとこいっぱいあっつぉい」は、「いいところがたくさんあるよ」の意味です。「おそぐなっつぉい」(おそくなるよ)、「おそぐなるぞい」など「ツォイ」「ゾイ」が共通語の終助詞「ゾ」や「ヨ」の役割を果たします。「ツォイ」は、奥羽地方に聞かれます。それに対して、「ゾイ」は、栃木県、石川県、岐阜県をはじめ四国地方でもよく聞かれます。

ご当地を支援する物産展が開かれました。「がんばってっつぉい!」(【写真3】がんばってるよ!)に全国からの支援に応える気持ちがたくされています。

【写真3 がんばってっつぉい!】
【写真3 がんばってっつぉい!】

118回146回156回159回166回171回にも関連記事があります。

筆者プロフィール

言語経済学研究会 The Society for Econolinguistics

井上史雄,大橋敦夫,田中宣廣,日高貢一郎,山下暁美(五十音順)の5名。日本各地また世界各国における言語の商業的利用や拡張活用について調査分析し,言語経済学の構築と理論発展を進めている。

(言語経済学や当研究会については,このシリーズの第1回後半部をご参照ください)

 

  • 山下 暁美(やました・あけみ)

明海大学客員教授(日本語教育学・社会言語学)。博士(学術)。
研究テーマは、言語変化、談話分析による待遇表現、日本語教育政策。在日外国人のための「もっとやさしい日本語」構想、災害時の『命綱カード』作成に取り組んでいる。
著書に『書き込み式でよくわかる日本語教育文法講義ノート』(共著、アルク)、『海外の日本語の新しい言語秩序』(単著、三元社)、『スキルアップ文章表現』(共著、おうふう)、『スキルアップ日本語表現』(単著、おうふう)、『解説日本語教育史年表(Excel 年表データ付)』(単著、国書刊行会)、『ふしぎびっくり語源博物館4 歴史・芸能・遊びのことば』(共著、ほるぷ出版)などがある。

『書き込み式でよくわかる 日本語教育文法講義ノート』 『海外の日本語の新しい言語秩序―日系ブラジル・日系アメリカ人社会における日本語による敬意表現』

編集部から

皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。

方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。