クヴァルクの話をもう少し続けたい。牛乳に酸や凝乳酵素(レンネット)Labを混ぜ、沈殿する白い凝縮物と透明な上澄みに分ける。白い凝縮物が凝乳Quark(英curd)で、上澄みが乳清Molke(英whey)である。
乳清は昔は捨てていたそうだが、今日では風味と栄養価を様々に利用する。粉末にしてお菓子などに混ぜ込んである。お菓子の箱の裏に印刷されている成分表によく見かける「ホエー」「ホエイ」とあるのがそれだ。英語から来たこの音がおかしいといって、ちょくちょくネット上で話題になる。
凝乳の方は、各民族各地方でありとあらゆる方法で手を掛け、熟成させて、様々なフレッシュチーズを作る。輸入チーズをブレンド、加熱処理して日持ちがするようにしたプロセスチーズしか日本では長いことお目にかかれず、今でもチーズと言えばプロセスチーズが主流で、国産のフレッシュチーズが手に入るようになったのもごく最近だから、まして新鮮な凝乳などは日本で知られていない。ヨーグルト違って乳酸発酵させて作るわけではないので、風味がもっと淡泊である。
因みに牛乳から乳脂 Rahm を分離して、発酵させればサワークリーム、乳脂の純度を上げていけば生クリーム Sahne からバター Butter に。バターを分離した後に残る液体が(専門的にも Milchflüssigkeit と呼ぶらしいが)バターミルク Buttermilch である。さっぱりした飲み心地で、時々日本でも見かけるが、よくよく考えてみると脱脂乳というやつで、私くらいの世代だと給食のまずい脱脂粉乳を思い出して、興がそがれる。
クヴァルクは食材としてよく使う。ソースやドレッシングに使うと、生クリームやヨーグルトとは違う爽やかな風味が出る。甘くしてお菓子にはさむクリームにしたりもする。しかし一番印象に残ったのは、ベイクド・ポテトにたっぷりのせたクヴァルクだ。
あんなものは以前はドイツの大学でも学食ではなく、カフェの軽食で出していた。大人の握り拳二つ分はあろうかという大きなジャガイモを、皮付きのままアルミホイルでくるんでじっくりオーブンで焼く。焼き上がったら、アルミホイルのまま皿に載せ、アルミを開いてジャガイモの真ん中にさくっと切れ目を入れ、湯気の立つところへ、ハーブを刻み込んだクヴァルクをどさっと山盛りにかける。初めて目にしたときには、前に座った女子学生がうまそうに平らげていくのに、失礼も顧みずとうとう最後まで見とれてしまった。席を変えて、自分でも早速注文したが、忘れられない味だった。ドイツのレストランにもなかなかない。簡単なようで、自分で作るのは難しい。