今回は,主に先生方の教材研究や,英語を専門に学んでいる大学上級生を対象に,一般にはあまり知られていない特殊辞典の中から,連語(コロケーション)辞典と,類語辞典(シソーラス)について,2回に分けてご紹介します。
一昔前までは,このような特殊辞典は,学生にとっては高嶺の花でした。英語研究者の書斎には必ずあるといわれ,コロケーション辞典の代名詞でもある『新編英和活用大辞典』(研究社)は,とくに英語を書く際には欠かせない辞書ですが,大部であることに加え,冊子版では1万数千円もするため,学生時代の私は,大学の図書館のものを使うしかありませんでした。コーパスなど影も形もなかった昭和初期に,勝俣銓吉郎氏が独自に何十万という用例を収集して編まれた「英活」の初版は,日本の英語辞書史に刻まれる名著であり,その「英活」をどこにでも持ち歩けたら…と願っていた英語教員,研究者は,私だけではなかったはずです。
英和辞典や英英辞典とは別次元のような,いかめしいイメージのあった英活ですが,最近は大学生向けの電子辞書のほとんどに搭載されるようになり,誰もがポケットに入れて持ち歩けるようになりました。それに伴い,英語を専門にしているのに,英活の使い方を知らない学生や教員が以前よりも増えているように感じます。先日も,電子辞書版の英活を使っていた学生に,「なぜこの辞書は英和辞典なのに発音記号が出ていないのか?」ときかれましたが,『“英和”活用大辞典』という書名から,英和辞典の一種だと思っている学生は,意外と多いのかもしれません。
こんな時にコロケーション辞典を
人間と同じで,ことばにも語と語の「相性」のようなものがあります。たとえば,日本語で将棋は「指す」ものですが,囲碁は「打つ」と言います。「将棋を打つ」「囲碁を指す」と言っても意味は通じますが,母語話者にとっては明らかに不自然な日本語です。英語にも,単語同士の「相性」があります。たとえば,(お茶が)「濃い」場合はstrongを使いますが,スープなどにはthickを使うことが普通です。このような,単語と単語の慣用的な結びつき(コロケーション)は,文法や語法の知識だけでは解決できないため,上級レベルの学習者でも非常に難しいものです。
英活は,コロケーションに特化した辞書で,38万という膨大な用例が収録されています。たとえば,soupを引き,「形容詞・名詞+」の項目を探すと,thick soup, thin soup, homemade soup…など,soupの直前にどういった形容詞が来るかがたちどころに分かります。
このように,英活を使えば,ある名詞がどんな形容詞や動詞,前置詞と共起するかといったことや,動詞を修飾する副詞の種類など,通常の英和辞典,英英辞典の用例以上の情報が得られますので,私たちが自然な英語を書く際には手放せない辞書と言えます。また,ほぼすべての用例には訳も併記されているので,発信用としてだけでなく,英語から日本語への翻訳の際などに,より自然な日本語を求める際にも役立ちます。
最近の電子辞書の中には,英活に加え,Oxford Collocations Dictionary for Students of English (OCD) を搭載した機種もあります。英活と異なり,用例は少なめで訳文もついていませんが,最新のコーパスデータをもとにした自然な連語を厳選しているのが特徴です。
電子辞書でコロケーション辞典をコーパスとして使う
電子辞書の例文検索機能を使うと,これらのコロケーション辞典に収録されている豊富な用例を自在に検索することができますので,英語を書く際の「お手本」を探すためのちょっとしたコーパスがわりにも使えます。和英辞典に頼りすぎないで,自分の知っている単語をコロケーション辞典で検索し,より自然な文例を探してみるようにさせることは,英作文などの指導をする上でも有効でしょう。