ドイツにUli Steinという人気漫画家がいる。漫画といっても、日本の漫画の影響を受けた最近のMangaというやつではなくて、昔ながらの大人向けのヒトコマ漫画Cartoonを描く。私はこの人の絵柄と古典的な味わいが好きで、手に入るだけ集めている。
さてCartoonでは、なれない料理に手を出してとんちんかんな言動をする男の様子がお決まりのテーマの一つだが、Uli Steinの“Viel Spass beim Kochen(楽しい料理)”という作品集の中の一編でも、男が台所で、コンロに乗せた鍋を前に、しかも紐をもてあましつつ、隣の部屋で用事をしているらしい奥さんに大声で語りかける。Wie bindet man eigentlich eine Sosse ? 「ソースなんていったいどうやって結ぶんだい?」この意味がすぐ分かるようだと、ドイツ語の料理用語に関する知識も一流である。
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bindenには、「結ぶ」という原義から発して、「結び固める>つなぎを入れて固める」という意味があり、ソースなどに小麦粉や片栗粉を入れてとろみをつけることを指す。普段料理などしたことのない男連中には、こんな用法は分らないというわけである。
ところでドイツ語でいわゆる「片栗粉」=でんぷん粉のことをStärkeという。元来形容詞のstarkの名詞形だから「強さ・強み」という意味だが、洗濯糊に使ったり、料理で「つなぎ」に使ったりするところからきた名前らしい。
ドイツには専用の「とろみ剤」があって、ソースに直接入れてもダマにならない便利なものだ───などと書こうとしたら、妻に見つかって、日本にも(株)丸三美田実郎商店の「とろみちゃん(ダマならない顆粒片栗粉)」という製品があるそうだし、そもそもドイツのStärkeについても、19世紀末創業の粉屋の老舗Mondamin社の歴史から説き起こさねばならないそうで、いい加減なことを書くなと叱られた。大きなことを言っても、私自身Uli Stein描くところの男連中と変わりはない。ちなみにダマのことはドイツ語でKlümpchen (<Klumpen) である。