改めてこんなことを言うと若い人は笑うが、グミという、歯ごたえのある固いゼリー菓子はすっかり日本に定着して、日本のオリジナルの製品が何種類も店先に並んでいる。もともとはドイツのHaribo社が1922年に考案して売り出したもので、しかも製品第一号はクマの形をしているのがミソだったから、Gummibärchenと呼ばれるようになった。(商品名自体はGoldbären「金のクマ」である)その後多くの種類を出したが(一説には三千種類にのぼるという)、やはりクマが代表格のようだ。
しかし日本ではあまり知られていないが、Hariboのグミにはもう一つの代表格がある。創業間もない1925年に同社が発売して、大当たりを取った黒いグミである。最初は棒状であったようだが、ひも状になり、それを渦巻きにして円盤型にまとめたものを今日では普通に見かける。しかしピンクのグミでサンドイッチにしたり、黄色のグミの真ん中に埋め込んだりで、この黒いグミは素材としても色々に使われている。
お菓子で黒いとなると、ドイツのものだからさすがに小豆あんや黒蜜風味ではないとして、日本人が期待するのはまあチョコレートかコーヒー味だろう。そう思って口にした日本人はみな、ひどいめにあう。実はこの黒いグミは、Lakritze「カンゾウ(甘草)」という植物のエキスを使っている。カンゾウは日本では漢方薬として有名である。苦甘いその味は、美味くもないが我慢できるとしても、問題なのはいかにも漢方薬らしいその強い独特のにおいである。そこで大抵の日本人はこの黒いグミを食べられず、受けが悪いから、あまり輸入もしていないようだ。これが食べられるようになるとヨーロッパ文化の理解も通の域だし、食べられないようではHariboファンを名乗る資格もない。
それほどカンゾウはヨーロッパでは甘味として古くから親しまれてきた。英語でリコリスと言えば、御存知の方もあるだろう。今でもドイツの子供たちは黒いグミの取り合いをする。ドイツの小学校で、あなたには特別にとっておいてあげたわ、といって貴重な黒いグミを渡され、娘は閉口したようだ。せっかくの好意は無に出来ないから、進んで口に入れ、息を止めて丸呑みするのがコツだそうだ。