前回は直接反論にかかわる表現を考えてみました。今回は一応相手の主張や言い分を認める形をとって、そのあとで自分の主張するところを述べる言い方を考察してみます。
よくみられるのは、相手の意見や主張を‘you are right’といったん認めて、次にbutを用いて反論なり修正意見を述べる形です。この場合の‘you’は「相手が言ったこと」に相当します。本辞典ではこの種の項目がありませんので、三省堂コーパスを改変したものをあげてみます。
‘You need a secretary. You’re too busy. Am I wrong?’ ‘You are right. But it’s difficult to find a right person.’ 「君には秘書が必要だ。忙しすぎるよ。間違っているかな」「その通りだけど、適当な人がなかなかいないんだよ」 / You said that the jury system works. I think you are right there, but some say against the system. 君は陪審員制度は機能していると言ったよね。それは間違っていないと思うけど、なかにはその制度に反対意見を言う人もいる。
助動詞mayを用いると、butを伴って譲歩の意味合いが強くなります。
‘Surely he’s a suspect now.’ ‘You may be right, but my guess is he wouldn’t know where the key was.’ 「彼が容疑者にきまってます」「確かにその通りかもしれないけど、私が思うに彼は鍵のあった場所を知らなかったと思う」
‘You are/may be right.’ は相手の言ったこと、主張したことの正しさに言及する言い方ですが、‘That’s right, but . . .’ は事実を事実として是認したあとで自分の意見を述べる言い方となります。
《まだ発売されてない本の内容をめぐって》‘It hasn’t been published yet as I understand it.’ ‘That’s quite right, but it’s been leaked.’ 「私の理解ではその本はまだ出版されていないはずだ」「まったくその通り。でも内容がリークしている」
事実に関する表現としては‘right’の代わりに‘true’が用いられることもあります。次は自らの発話内における例です。
Boys don’t go into bookshops. I certainly think to a great extent that is true, but when the books are brought to them they get very enthusiastic.男の子は本屋に行かないし、たいていの場合たしかにそうだと思うけど、本を与えるととても興味を示す。
次は同じtrueの例ですが、助動詞mayを伴って譲歩の意味合いを前面に出して相手の発言に応答しています。
‘You know, I just read the other day that there really is a connection between watching violent films and doing violent things.’ ‘For some people that may be true, but we just saw the film, and we’re not about to do anything violent.’ 「あのね、この前暴力的な映画を見ることと凶暴なことをすることには関連があるという記事を読んだんだけど」「一部の人には当てはまるかもしれないけど、たった今その種の映画をみたぼくらは何か凶暴なことをしようとしていないだろ」
この例では相手に直接反論しているのではなく、記事の内容に対して反証をあげている言い方になっています。