今回から反論にかかわる表現を考えてみます。「反論」というと、議論を思い浮かべますが、ここでは広く相手の意見、主張になんらかの異議を唱える言い方をいうことにします。もっとも直接的で端的な語句はbutです。以下は本辞典からの引用です。
2 〈不同意や不信感などの感情を表して〉でも:“I don’t think I should stay in this house.” “But why?” 「この家にいるべきじゃないと思うんだ」「でもいったいどうして」/《ルームメイトとのやりとり》 “Somebody wants you on the telephone.” “But who knows I’m here?” 「誰かからあなたに電話よ」「でも誰が? 私がここにいることは誰も知らないのに」.
第1例では ‘You should stay in this house.’ と思っている話し手が相手の意見と合わないことを but で表現しています。第2例は「ほかの誰も知らないはず」という前提と実際に電話がかかってきたことの矛盾に対して疑問を呈している例です。
相手の言っていることが文字通りわからないということは I don’t understand で表すことができます。
1 (相手の発言の意図が)わからないな, どういうこと?:“She must turn herself in.” “I don’t understand.” “She’s committed a crime.” 「彼女は自首すべきよ」「わからないな, どういうことだ」「彼女は罪を犯したのよ」/ “I can’t understand what you say. Wait a minute. I don’t understand.” “What don’t you understand?” 「僕には君のいうことがわからないな. ちょっと, 待ってよ. どういうことなんだ」「何がわからないんだ」.
この場合、相手の発言内容や発言意図がわからないことを伝え、ときには相手への不信感、疑念、さらに挑戦的な態度を表明することがあります。ちなみに、次例は相手に対してではなく、自分自身の考え方がまとまらずに自問自答しているものです。
3 〈反論や疑問を述べる前置きとして〉どうもわからない(んだけど) (◆しばしばbutを伴う):《殺人現場で》 But I don’t understand. Why did he draw the circle there? どうもわからないな. ホトケはどうしてあそこに円を描いたんだろう.
また、やや間接的に、What are you saying? と問うことも可能です。これは聞き取れなかったことを問い返しているのではなく、相手の真意、意図を問う言い方です。
1 〈相手の発言意図がわからずに〉 (いったい)どういうことなの:《夜のデートで別れるときに》 “I’ll see you in the morning.” “I won’t.” “What? Why? What are you saying?” “I’m saying goodbye.” 「じゃあまた明日」「それはないわ」「え? なぜ? どういうこと?」「これっきりにしましょうと言ってるのよ」/ 《娘が両親に》 “I’m leaving tomorrow.” “What are you saying? Are you saying that you are going to live alone away from us?” 「明日出ていくわ」「何て言ったの? つまり, うちを出てひとり暮らしを始めるということ?」 (◆このように, Are you saying that . . . ? を用いて, 相手が言いたかったことを推測して聞き返すことがある)
上の2つの例とも相手のことばははっきり聞き取れているが、その意図するところが理解できなかったことを表しています。「反論」とまではいきませんが、いずれも話し手が思っていることとは違う話の展開になっていることに注意しましょう。次例では相手の意見、主張に真っ向から異議を唱えている言い方になっています。
2 〈異議を唱えて〉何(ばかなこと)を言ってるのか, いったいどういうことですか:“I think we should have a change of headmaster.” “What are you saying? He’s the best headmaster we’ve had for years!” 「校長を替えるべきだと思います」「何を言ってるんですか. 彼は(我が校の)長い歴史の中でも最も優秀な校長ですよ」/ 《息子のことで口論して》 “He didn’t study seriously. That’s why he failed the test.” “What are you saying? He prepared enough for the test.” 「彼は真面目に勉強しなかったからテストに失敗したんだよ」「何を言ってるの. 試験勉強はたっぷりしてたわよ」.
さらに、What’s your problem? と相手の話のポイントが把握できない旨の言い方もあります。
1 〈相手の言ったことに対して〉何が問題なのか, 何が気に入らないのか:《戦闘機のパイロットと上官との会話》 “You two really are cowboys.” “What’s your problem?” “You’re everyone’s problem. That’s because every time you go up in the air, you’re unsafe.” 「君たち2人は本当に無謀なやつらだな」「それがどうしたって言うんです?」「問題だよ. 君たちが空中にあがるたび, 無茶ばかりやらかしてくれるのだから」.