タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(47):Duplex Typewriter

筆者:
2018年12月20日
『Phonographic Magazine』1895年10月1日号
『Phonographic Magazine』1895年10月1日号

「Duplex Typewriter」は、デニス(Adolphus Sylvester Dennis)率いるデュプレクス・タイプライター社が、1893年に発売したタイプライターです。100個ものキーを有する「Duplex Typewriter」の特徴は、左半分のキーと右半分のキーで印字点が別々になっており、一度に2文字ずつ打つことができる、という点にありました。これにより打鍵スピードが2倍になる、と発明者のデニスは考えたのです。

「Duplex Typewriter」は、100キーのアップストライク式タイプライターです。タイプバスケットに円形に配置された100本の活字棒は、それぞれがキーにつながっており、キーを押すと、対応する活字棒が跳ね上がってきて、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。100本の活字棒のうち、左半分の52本と右半分の48本は、印字点が1文字分それぞれ左右にズレていて、隣り合う2文字を同時に打つことが想定されています。ただし、打った2文字をその場で見ることはできず、プラテンを持ち上げるか、あるいは数行分改行してから、やっと印字結果を見ることができるのです。

「Duplex Typewriter」のキーボードは、左半分の52キーと、右半分の48キーが独立していて、かなり独自性の高いキー配列になっています。左半分は、大文字26字と小文字26字から構成されます。右半分は、数字10字と記号12字と小文字26字から構成されます。キーボードの最上段は、左半分がOIERTLと、右半分が()890%と並んでいます。次の段は、左半分がASDFGHと、右半分が?"567$と並んでいます。その次の段は、左半分がBCKMNYZと、右半分が-1234zと並んでいます。その次の段は、左半分がJQPWUVXと、右半分が&.,'_xと並んでいます。その次の段は、左半分も右半分もoiertlと並んでいます。その次の段は、左半分も右半分もasdfghと並んでいます。その次の段は、左半分がbckmnyzと、右半分がbckmnyと並んでいます。最下段は、左半分がjqpwuvxと、右半分がjqpwuvと並んでいます。つまり、小文字が左右にダブって配置されているのです。

右下のスペースバーを含め、どのキーを押してもプラテンが2文字分、進みます。ただし、左下のバックスペース・キーだけは、プラテンが1文字分、戻ります。つまり、小文字の場合には両手で2文字ずつ、数字の場合には右手の数字とバックスペース・キーで1文字ずつ、打つことが想定されているのです。しかしながら、小文字を両手で2文字ずつ打つ、というのは、普通のタイピストには非常に難しく、「Duplex Typewriter」は、やや実用性に乏しいタイプライターだとみなされていたようです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。