前回は「仕方ない」という言い訳表現をみましたが、今回は注意を喚起する表現を考えてみます。
一般に注意を喚起するときは誰かになんらかの危険が迫っていて、その危険を避けることができるようにする場合だと思います。余裕がなければ単に声を上げるだけでその目的は達せられますが、ことばに出すときは視覚に訴えてその危険の方向に目を向けるように仕向ける表現がよく使われます。Look [Watch] out! がそのひとつです。その前に危険な状況を述べて、Look [Watch] out! という場合と、for を伴って具体的な危険(人)物をあげる言い方があります。本辞典から引用します。
4 〈注意を喚起して命令文で〉気をつけろ!, 危ない!:The guy may be dangerous. Look out! あの男, 危険かもしれない. 気をつけろ! The car is coming. Look out! 車が来るよ. 危ない! Look out for pickpockets. すりに御用心! (◆注意を向けるべき対象は for で表す)
また、‘Watch it!’という言い方もあります。この‘it’は特に指すものはなく、「状況の it」と呼ばれるものですが、起こっている事態や結果として生じていることに対して注意する表現です。
1 〈注意して〉気をつけて:《道路に飛び出した子どもに対して》 Watch it, kid! 坊主, 危ないじゃないか, 気をつけろ! Watch it! Slow down! This road is very slippery in the rain. 気をつけろ. スピードを落とせよ. 雨で道路はとてもスリップしやすいから.
2 〈相手のことば遣いに対して〉ことばに気をつけて:“Get out of my way!” “Watch it! If you’re rude to me again you’ll get a slap in the face!” 「どけ!」「ことばに気をつけな! 今度そんな口をきいたら, 平手打ちだぞ」.
3 〈相手を責めて〉ふざけなさんな!, いいかげんにしなさい!:《子どもがおもちゃの刀を振り回すのを見て》 Oops! Watch it! おおーっと, 危ないじゃないか!(ふざけては駄目).
語義1と語義3は危険な行動、行為をいさめる言い方ですが、語義2は乱暴なことばづかいを注意するものです。ことばづかいを注意する表現では it を具体的に口とか舌に変えて表現することもできます。次の例は‘Watch it!’の下囲いにあげてあるものです。
“Come on, mom! I’m fucking grown up!” “Watch your mouth! Where did you learn such a dirty word!” 「なあ, かあちゃん! 俺はもういっぱしの大人なんだからよ!」「ことば遣いには気をつけなさい. どこでそんな汚いことばを覚えてきたの!?」 (◆fuckingはタブー語)
なお、‘Take it easy.’にも注意喚起用法があります。
4 〈物に対して注意を引いて〉丁寧に扱う, 気をつける, 加減する:Take it easy when you wear this diamond ring. It may catch your sweater. このダイヤの指輪をつけるときは気をつけてください. セーターをひっかけてしまうかもしれないから Ouch! Take it easy on my sore arm. I’ve just got a shot! 痛い! 腕が痛いんだからそっとやってくれよ. 注射をしたばかりなんだから
‘Watch it!’は、上でみたように、してしまった行為を責めて、「今度からは気をつけるように」という注意なのですが、この‘Take it easy.’はこれからの行為に対して注意を喚起する言い方です。