前回は look や watch を用いた注意喚起表現をみましたが、今回は mind を中心に注意を喚起する表現を考えてみます。
look や watch は危険な方向に目を向けて視覚に訴える表現でしたが、mind はどうでしょうか。mind の基本的な意味は、「…に注意する、…に注意を払う」ということです。つまり、目的語には注意すべき部位、場所、物などがきます。相手に注意喚起する場合は命令文が典型です。本辞典では Mind your head. と Mind your back. が見出しで出ています。
1 危ない, 気をつけて, (頭を)打つよ:《車から降りようとしている乗客にタクシーの運転手が》 Mind your head, sir! お客さん, (頭をぶつけないように)気をつけて “Mind your head!” “What?” “Mind your head.” “I’m OK.” 「危ない!」「何だって?」「頭をぶつけるよ」「大丈夫だよ」.
2 (…で)頭を打たないように気をつけて:Mind your head on that cupboard. そこの食器棚で頭を打たないように注意しなさい (◆障害物を明示する場合はonを用いる)
head は首から上を指す語ですが、この表現では文字通り「頭」の部位をいいます。
よく言われることですが、head は「頭部」をいい、日本語の「頭」に比べカバーする範囲が広いので、‘shake one’s head’は「頭を振る」のではなく、「首を振る」、野球やゴルフで‘head up’というと、「あごがあがっている」ことを言います。この‘head up’も注意喚起表現として用いられます。「頭上を注意せよ」ということですが、文字通りの意味は「見上げて注意せよ」ということです。
1 〈上から落ちてくる物体に注意を喚起して〉頭に気をつけろ, 危ない:《2階から物を落とそうとしている人が下にいる人に》 Heads up! I’m about to let go of this. 頭に気をつけて! 今これを落とすからね 《つららの下がった軒先で, すでにいくつか落下しているのを目撃して》 Heads up! Icicles are falling! 危ない! つららが落ちてくるぞ.
次は Mind your back. の例です。
1 〈道を空けるよう警告して〉気をつけてください; (後ろを通ります)ご注意ください, 道を空けてください, 通してください:Mind your back, please. The waiter is coming through with the tea wagon. ご注意願います. ウェイターが軽食用ワゴンを押してまいります 《ポーターが重い荷物を運んでいるときなどに》 Mind your back! 後ろを通りますので, お気をつけください.
back は「背中」ですが、「背後」全体も指します。
mind の目的語には head や back のほかに、いろいろな身体部位や部位を含意する語がきます。次は Mind your back. の下囲いのところからです。
(2) mindの目的語にはbackのほか注意すべき対象がくる:Mind your step! 足元に気をつけて! Mind your eye! よく前を見ろ!
また、障害物や危険箇所もmindの目的語になります。その例が本辞典にはありませんので、三省堂コーパスから修正して引用します。
《医師と看護師の会話》‘Where’s the patient? Anyone seen the patient?’ ‘Ah, here she is.’ ‘Bring her round. Mind the machine!’「患者はどこだ?誰か見かけたなかったか」「あぁ、こちらにいます」「こっちへ連れてきて。機器に気をつけて!」
ほかに、baby, dog, car bike, cup, glass, stairs などがコーパスにありました。
最後に、余談ですが、15年ほど前、ロンドンの地下鉄のホームと電車とのあいだの割れ目のところに‘MIND GAP’(割れ目注意)と書いてあるのを見つけました。ニタッとしたのは、MIND の I に斜線を引いて E としてあったのです。つまり、「(注意せよと言う前に)‘MEND GAP’(割れ目を直せ)」という洒落た落書きだったのです。