展望台のチケットには、漢字が併記されているが、ハングルの後ろにある「(1層,展示場)」は、何語を想定した使用だろうか。あるいは、表音文字性を活かそうとして、いわゆる漢字文化圏での汎言語的な表示を企図したものなのだろうか。
館内では、持ち込まれた品々により北での生活の様子が展示されていた。掲示物には漢字もいくらか見られるが、自国民に字義を明示するためだろうか。北の用語との対象表も掲示されていて興味深いが、括弧内の漢字は誰に向けたものだろう(写真)。
냉면(冷麵)
감미료(甘味料)
「北韓住民内室」という表示板の「内室」には、表示板の英語の部分ではbedroomなどが対応するようだ。韓国語では、閨房の意と辞書にはある。これ自体は現代の日本語ではほとんど使われないようだ。「賣場」(1字目は売の康煕字典体:旧字体)などは、結果として日本人も日本語として読めるかもしれない。
外を眺めれば、目の前で、大きな漢江(ハンガン)と臨津江(イムジンガン)とが合流する。凍った川面には、境界線など見えない。勧められるままに、コインを入れて望遠鏡を覗くのは、いつ以来だろう。イムジンガンを隔てただけの北の風景が間近になる。川向こうには、昔風の建物がある。人影はまばらだが、畑仕事をする人、小学校だろうか、サッカーをする姿が遠くに見えた。ツルツルになった山肌にも、文字は見えない。
統一展望台の屋内の一室には、歴代の大統領など要人の筆跡も展示されていた。そこでは、漢字ハングル交じりがとても多い。かつては国漢混用文体として位置づけられたものだ。その肉筆には、姓の「鄭」がやはり「八」で始まっている。「祖国統一」と読める字もあった。「國」ではなかったのだ。自署も漢字がほとんどで、古い人は名前は漢字でという意識が強かったそうだ。なお、ベトナムでは、このように文字体系を混在させたローマ字漢字交じり文は見られない。括弧内に漢字を注記する表記法も、韓国と違って、歴史や言語などの専門文献で漢字を示す必要がある場合に限られるのである。
いわゆる康煕字典体ばかりが使われているわけではないことは、次の例からもうかがえた。少なくとも民間では、康煕字典体、書写体、韓国独自の異体字、中国式の簡体字(と一致する字体)、日本式とされる略字、個々の誤字体が混在しているようだ。
北韓地形圖(図の旧字体)
衛(新字体のママ)星寫(写の旧字体)眞
韓国では、このようにときどき「衞」ではなく略字の「衛」の字体が出現するのは、日本の影響といえるのだろうか。日本でも、戦前から活字ではしばしば見られたものだった。その中国の簡体字「卫」も、実は日本の片仮名「ヱ」に由来するとも言われている。
출구(出口)
だんだんと、表示されている漢字が何語なのか分からなくなってくる。「直割市」は「直轄市」か。「전망실」(jeonmangsil)には、「展望室」という振り漢字がなされていた。
觀覽場 入口
安全出口
非常口
昇降場
銅錢交換