展望台の中では、朝鮮民主主義人民共和国の製品が販売されていた。購入したら、税関を通って日本国内に持ち込めるのだろうか。展示品となっていた北の種々の酒の瓶に貼られていたラベルには、漢字があった。伝統的な漢方書「東医(ママ)寶鑑」の名も印刷されていた。「平壌」の2字目は旧字体だったか、今となってははっきりしない。外国向けというわけではなさそうだが、漢字使用制限の対象外となっているのだろうか。
医薬品にも、簡体字は中国語だが、繁体字もハングルに添えられている。漢方の薬名を正確に伝えようとするためなのかもしれない。篆書体や筆字で印刷されているものは、やはり書体のもつ雰囲気を利用した、漢字圏に広く見られる方法が残っていると見るべきだろうか。
展望台には売店も設けられていた。そこでは貼り紙などに、「記念品」とあるほか、「紀年」と書かれたものもあったが、だから中国語を書いたつもりだった、とも即断しがたい。
横断幕のような「韓國傳統~」の表示は、外国人向けだろう。この3字目は、「伝」の旧字体だ。ただ、そういう掲示であっても、「松」の2字目は、中国でも日本でも見かけなくなった字であり、これで誰にこの植物名がきちんと伝わるだろうか。
北の文字の現状は、中国東北の平壌館に連れて行ってもらったほかは、在日の生徒さんたちが通っている、近所の朝鮮学校で行われるようになった学校開放、授業参観に参加してみるなど周辺からうかがうばかりだ。そこでは、かつての大きなハングル標示板は消えていた。各種の書籍、報道や留学生らの噂話などでも知識は増える。ある学会で、北の研究者と同席できるという予定もあったのだが、残念ながら開催自体が実現しなかったそうだ。
その土産物店では、漢字とハングルを混用したキャッチコピーだろうか、
無방부제,無색소
とあった(写真)。これは珍しいが、「防腐剤」(bangbuje)・「色素」(saekso)は、「無」と同じく漢語であってもハングル表記であるところから、漢字で韓国人向けに、無いという意味を強調して示してみたのだろう。1字だけ漢字表記という特色がここにも見て取れた。「옥(玉)」は、和語の「たま」とは違う宝石の「ギョク(ok)」であるところから、やはり漢字で補う必要があるのだろう。
大韓國人!
トイレの中で貼り紙にあったこの呼びかけの表示は、明らかに韓国人向けの韓国語を漢字だけで表記した、珍しいものだった。
福(写真)
お守りに記されている漢字は、中国やベトナムとよく似ている。ただ、これらも果たして北の製品で、南向けの商品なのかどうか、説明書きがないため、よく分からない。