韓国のテレビ番組では、ハングルやアラビア数字、ローマ字に交じって、画面上では漢字がわずかずつ見つかった。新聞の表記と共通している。接尾語、接頭語に1字使われることがあった。下記の「○」はハングルを表す。
○○中
この接尾語的な「中」は、便利なので、中国語でも使おうという動きがある。「戊戌中」のような用法も、古代の朝鮮半島に端を発したのではないかいう説がある。
前○○
これは、KBSニュースで見た。韓国語では、「全」と同音であるための措置だろうか。
国名を短く表現するためにも、漢字は出現した。「北」はやはりニュース番組で、テロップに「北韓」(北朝鮮)の略称として用いられていた。「美」はアメリカであり、これは現代中国式だ。一方、フランスは「仏」など、歴史的な原因や地政学的な影響などによって、出自や伝来経路がまちまちとなっている。
テロップには、ハングル表記の文の先頭の字の上に、
がゴシック体で現れた。このように一字漢語を漢字で表現するケースが今回、とても気になった。口頭語では意味がはっきりしないことと、同音語が多いためだろうか。
・統一展望台にて
ソウルから漢江(ハンガン)を沿って北へと向かう。ベトナムと違って、街中には寺院が見当たらないため、仏教に関わる漢字が見当たらない。かつて、朱子学が席巻した時代に、山中へと移ったのだという。日本のように、奈良・京都に限らず、民家と寺社とが混在するという風景がない。院生時代の旧友が自由路を通って38度線近くまで連れて行ってくれるという。なお、韓国語では友人を親旧(チング)とも言う。固有語のトンムには珍しく「同務」という当て字がなされることがあったが、北で中国の「同志」のような意味で使われるようになったものだ。
韓国の人なので、いろいろ解説してくれる。走行中の「自由路」は韓国語では「自由へ」という語と同音だ。並行して「統一路」も通っているそうで、そちらは「統一へ」という意味だが、それらの道路は今は韓国側にしかないそうだ。
まっすぐなその道路に沿って看板が立っている。そこまでの区間では、稀に「名品」などの漢字が見られる(写真)。以前、やはり道路脇で、「自尊(やはりソはハ)心」と書かれたポットの看板を見たことを思い出す。あれは、国産品を買おうというスローガンとのことだった。
38度線の近くに降り立つ。正確には軍事境界線、その向こうは、日本と国交のない北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国だ。かつてはパスポートにも、渡航不可の由が明記されていて、厳しい現実を思い知ったものだ。政治と軍事の現実を目の当たりにする統一展望台は、基本的に民間人の地域だそうで、所々に軍用施設はあるものの、板門店のような軍人の対峙は見られなかった。看板には、
「軍事作戰地域」
「民間人出入禁止」
と記されている。この語順から見て、これらはここを訪れる中国人向けではなく、主に日本人向けの看板であるようだ。ただ、ベトナムや恐らく北朝鮮と違って韓国では、漢字を(字種は限定されていたとしても)読み書きできる人がかなりの割合でいる。「出入(でいり)」も、漢語でシュツニュウが古くからあり、韓国では字音語として採り入れられている。漢字使用が行われていたころの表示が残っていたり、ある種の効果を狙ったものが日本のようにあるのならば、これらも自国語で自国民向けに書いたという可能性もある。