前回の『豆州志稿』を明治期に活字に組んで刊行した『増訂豆州志稿』巻6-46オにも、似ている記述が確かめられた。ここでは、「大瀑(オホタル)」「初景瀑(シヨケイタル)」「釜瀑(カマタル)」の3つの「瀑」の字にタルという振り仮名が付されている。そして、「方言瀧ヲたるト呼フ蓋(けだし)垂(タ)ルヽ義也」とある。
そうすると、「エビ滝」は、明治以降、資料があまりないのだがことによると戦後の命名かもしれない。
こういう少しの好奇心と比較的簡単な調べさえあればある程度の情報が手に入る時代になった。そういう便利な時代あって、歴史と地理と言語にまつわる事実を、もっと観光に活かしたらよいのにと、もったいなく思う。
人間文化研究機構国文学研究資料館『豆州志稿』より248コマめ
「大瀑布」の「瀑布」の字の右側に、「タル」と振り仮名がある。また、「方言ニタキヲタルト云盖シ垂(タルヽ)ノ義也」とある。
人間文化研究機構国文学研究資料館『豆州志稿』より249コマめ
「洞山瀑布」の「瀑布」の字の右側に、「タル」と振り仮名がある。
国立国会図書館デジタルコレクション『増訂豆州志稿 巻之6』(46オは47コマめ)
「大瀑(オホタル)」「初景瀑(シヨケイタル)」「釜瀑(カマタル)」の3つの「瀑」の字にタルという振り仮名が付されている。「方言瀧ヲたるト呼フ蓋垂(タ)ルヽ義也」との記述もある。
路線バスを待って、駅まで向かう。修善寺へと行くバスも出ている。途中のバス停名も、新鮮だ。「冷水(ひやみず)」なんて地名は、聞いた覚えがなかった。看板もあれこれと目に入る。「鈑金」はもとの「板金」とともに日本中で見かけ、地域性のない位相表記、位相文字のようだ。
「古笹原商店」がある。「古笹原」は名字だろうか。笹原温泉もあるそうなので、地名から来たものだろうか。「美よし」は、旅館、割烹、飲み屋、小料理店にありがちな頭文字を漢字、それ以外を平仮名にするという表記法で、「川ばた」、逆に「いし田」などもある。メモに写しながら、「美」も「よし」と読める(美子など)、「三好」あたりを良い意味の字(佳字)に、そして料理店らしく役割表記的に変えたものか、などと想像してみる。「美美」とも当て字で書けることを前提に、一つを活かして。あるいは一つずらしてこの表記に決めたのだろうか。いや直感的に一瞬のうちに決めたのかもしれない。もしかしたら画数占いで、なんていう決め方も今はありそうだ。
最初、ひらがなで、「だるだるだんだん橋」を見たときには、意味が読み取れなかった。「滝々段々橋」という表示板を見て、漢字があったのか、と思い、家でパンフレットを整理していたときにきちんと意味もつかめた。あれらの滝が流れる川の名は、一度も見聞きしなかったが、もらった観光パンフレットで確かめたところ、本谷(ほんたに)川だった。「谷」はヤではなくタニだ。その下流は、河津川のようで、カワの重なりが多少気になる。しかし各地に大川川、中川川、小川川などもあり、その英語名はと考えると、この辺りはそういうものと考えることもできそうだ。
「七滝茶屋」「釜滝茶屋」などの店や「七滝高架橋」、「大滝温泉」「七滝温泉」、「谷津(やつ)温泉」などもあった。帰宅後に、もらったパンフレットを眺め返して気づくことは、予習不足で面倒くさがりの身には多い。今回初めて、伊豆半島の中央部にまで旅行に出かけていたのだった。