このカタカナ語、英語で言うと???

第12回 Tシャツとサングラス(2)

筆者:
2021年11月16日

「Tシャツとサングラス」2回目は、「サングラス」の方の話です。前回Tシャツは、単数形のT-shirtではなく、複数形であるT-shirtsの方が日本語として定着していることをお話しし、そういった単語をほかにもいろいろ挙げました。

今回は、逆に「単数形が日本語として定着している単語」に着目していきたいと思います。「え? 単数形が日本語として定着しているって、普通のことではないの?」とお思いではないかと思います。実際にほとんどの単語はそうですね。「オレンジ」は単数形のorangeからきているし、「バッグ」は単数形のbagからです。しかし、中にはそうではないものもあるのです。そうです、それが「サングラス」です。

英語では “常に複数”

サングラスは、英語で×sunglassということはありません。レンズが2枚セットになっているので、必ずsunglassesという複数形で使うのです。Tシャツのように複数形で定着している単語がある一方で、もともとは複数形なのに、日本語では単数形が定着する、ということもあるのですね。不思議です。やはり、サングラシーズでは、日本語として語呂が悪かったのでしょうか。

sunglassesは複数形なので、×this sunglassesという言い方はないという点に留意してください。「このサングラスは私のです」と言いたいときには、サングラスが1つでも、These are my sunglasses.のように、文法的にもすべて複数のルールを適用してくださいね。でも、1つのサングラスをa pair of sunglassesと呼ぶ場合がありますよね。このときは、実はネイティブでも使い方が分かれます。

A. There is a pair of sunglasses.

B. There are a pair of sunglasses.

Aでは、「ペアの数」が1つであることをとって単数扱いしていますが、Bではレンズが複数あることを重視し、複数として扱っています。これは、どちらを使ってもよいのではないかと思います(注1)。英語の数の概念というのは、本当にやっかいですね。

常にペアで存在しているもの

sunglassesのように、2つのものがペアの形で存在しているために複数形になっている単語は、ほかにもあります。サングラスと同じく、ゴーグルも、英語ではgogglesです(発音は/ɡɑ́ɡəlz/)。

それから、トングやニッパーなども、tongs、nippersと複数です。これは、ハサミの刃が2枚なのでscissorsになるのと同じですね。シンバルやカスタネットもこのグループに入れてよいでしょう。これらは2つセットでないと演奏できませんね。ですから通例cymbals、castanetsと呼ばれています。また、日本人が忘れがちなものに、車のヘッドライトがあります。「ヘッドライトをつけた」と言いたいときにはI turned on the headlights.としてください。

また、パンやタイが複数形のまま日本語になっているのに対し、キュロット、サロペット、ベルボトムなどは、日本語としては単数形が定着しています。英語でいうときには、常にculottes、salopettes、bell-bottomsと、複数形になることを覚えておいてください。

ペアで使われることが普通のもの

特に気をつけたいのが、ふつうはペアで使うものでありながら、サングラスやトングと違い、バラバラになるので単数形がしっかりあるものです。たとえば、サンダルはどうでしょう。「これは私のサンダルです」というとき、This is my sandal.にしてしまっていませんか? これでは、「これは私のサンダルの片方です」という意味ですね。1足のサンダルのことをいいたければ、These are my sandals.といわなければなりません。

サンダルだけでなく、sneakers(イギリスではtrainers)、high heels、slip-ons、loafers、slippersなど、靴の類はみな通例複数形で使う、ということは、頭に入れておいてください。スキーやスケートも、skis、skatesで一足です。

足につけるもの以外では、イヤホンやイヤリングがこれに当たります。イヤホンはふつうearphonesと複数ですし、イヤリングは1つだけつけるならan earring、両耳に、または2つ以上つけるならearringsです(注2)

ペアでなくとも通例複数

また、ペアではないものでも、英語では、かなりの割合で複数形で使われる名詞の一群があります。たとえばflakeがそれです。ひとかけらの物を単数形でa flakeということはできますが、たとえば雪やコーンフレークなどが、たった一片で存在していることは稀ですね。ですから、ふつうはflakes of snowとか、cornflakesといったように、複数で使われる可能性が、とても高いのです。

同様に、麺類も1本だけ食べるということはありませんし、クルトンを1粒だけのせるということもないでしょう。noodles、croutons、potato chipsなども、複数形で使うべきものとして覚えてしまってよいと思います。オンザロックも、英語ではon the rocksということになっています。

辞書をチェック!

こういったものは、ふつう辞書にもきちんと記載があります。[通例~s][複数扱い]などといった形で書かれていますので、お手持ちの辞書をチェックしてみてください。英語が使えるようになりたいのなら、辞書は「意味」の部分だけでなく、こうしたカッコの中をチェックしていくのが、とても大切です。

「Tシャツとサングラス」

さて。ここまでお読みのみなさんは、もう「私はTシャツとサングラスを身につけています」を、英語で正しくいうことができるはずですね。正解(注3)は、

I am wearing a T-shirt and sunglasses.

です。Tシャツを単数に、サングラスを複数にすることができましたか? めんどうでも、この単複をしっかり意識していくことで、あなたの英語はしっかりとしたものになっていくでしょう。

  1. ここで挙げた例については、COCA(Corpus of Contemporary American English)やSKELLなどのコーパスで見ても、両方の例があることがわかる。しかし、細かい使い分けについては各辞書pairの項目に注記が載せられているので、それらを参照のこと。
  2. earringというと、日本語でいうところのピアスが想起されることが多い。耳に穴をあけるタイプではないものを限定して指したいときにはear cuff、clip-on earringなど。耳に穴をあけるタイプであることを明示するにはpieced earring、まっすぐな軸のものはstud earringなど。
  3. 正解はひとつというわけではありません。たとえばsome sunglassesのようにsomeをつけたいこともあるでしょうし、a pair of sunglassesとしてもかまいません。ポイントは、Tシャツには冠詞のaをつけて複数のsをつけないこと、サングラスはsunglassesと複数形にすることです。

筆者プロフィール

武田 三輪 ( たけだ みわ)

日本語教育能力検定合格及び420時間の研修修了。外資系企業(ダイソン・ノキア等)で日本語教育に従事し、その後大手英会話スクールで日常会話、TOEIC800点コース、ビジネス英語等を担当。早稲田大学文学学術院博士後期課程中退。大学院では日本語学を修め、辞書についても研鑽を積んだ。現在はフリーランスの英会話講師として、日本語学の知識を活かした英文法、辞書指導に力を入れながら、話せるようになることに特化した指導をしている。
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編集部から

「日本語風の発音になってはいるけど、メールはmailでしょ」
では、そのまま英語として使えるのでしょうか。
もとの英語とカタカナ語との間にズレがあるもの、そもそも英語ではないもの、カタカナ語のなかにはいろいろあります。
発信が重視される昨今、このカタカナ語、英語で言うと……そんな疑問に答える連載です。