英語にもちゃんとあるのにそのまま英語にできないカタカナ語、本日は「Tシャツとサングラス」というタイトルでお話ししたいと思います。「Tシャツ」と「サングラス」は、両方とも、日本語話者が英語を話すとき、とても間違いやすい語だということを意識したことはありますか? この点について、今回は「Tシャツ」タイプの語、次回は「サングラス」タイプの語について、分けてお話ししていきたいと思います。
「ツ」は複数形
まず、問題です。英語で “Tシャツ” の複数形はなんでしょう? そう聞かれて、「Tシャツズ」と思った人はいませんでしたか? 残念ながら、英語には「Tシャツズ」などという語形はありません。Tシャツの複数形は、”T-shirts”です。そして、単数形はT-shirtで、「ツ」のような音は出ません。単数形でT-shirtというときは、末尾は /t/ と発音しなければならないのです。
Tシャツという語は、T-shirtの複数形のT-shirtsが、日本語として定着した語形です。ですから、Tシャツを英語でいうときは、下のようにしっかり使い分けをしてくださいね。
My mother bought me that T-shirt.(母があのTシャツを買ってくれた。)[単数]
I have a lot of T-shirts.(私はTシャツをたくさん持っている。)[複数]
The man in a black T-shirt is my brother. (あの黒いTシャツの人が私の兄だ。)[単数]
T-shirts are good for summer.(Tシャツは夏によい。)[複数(総称)]
実は、「ツ」で終わるカタカナ語の多くが、この「単数形は-t、複数形が-ts」というパターンにあてはまるんです。シャツ、ドーナツ、フルーツ、バケツ、スポーツ、プリーツ、スーツなどがこれに当たります。日本語が母語の人は、”I am wearing a ×suits.”と言ってしまいがち。日本語ではスーツですが、英語のときはsuitというのです。
「シーツ」もこのグループですが、紙やプラスチックなどの「シート」も、英語だと同じsheetです。日本語では「シート」は紙などでできたもの、「シーツ」は布製の寝具というように、別々のものを指すことになっています。木の実のナッツと工具のナットも、これと同じ関係です。おもしろいですね。
「ス」「ズ」がつくもの
タコスやチュロスなども、「ス」や「ズ」をともなって複数形が定着しているものです。英語では、単数のときはtaco、複数のときにはtacosと使い分ける必要があります。ほかにも、グリンピース(単数形はgreen pea)、ビーズ(単数形はbead)などがありますね。
意外なところでは、ウエハースも複数形。単数形はwafer、複数形がwafersなんです。映画や音楽などのインディーズも、単数形はindieです(independentから)。それからDouble Income No Kidsを意味する語は、日本語ではディンクス(DINKs)といいますが、英語の場合はDINKという単数形も使います。最近使われるようになった単語では、簡単なコツなどをあらわす「ティップス」という語、それからスポーツの紅白戦のときに使われる「ビブス」なども、複数形が定着したものといってよいでしょう。
「ス」「ズ」「ツ」がつかないもの
「ス」「ズ」「ツ」などがついていれば、複数形だということがピンと来やすいかもしれませんが、中にはそうではないものもあります。たとえば、「アダルトチルドレン(機能不全家族で育った人)」は、英語では単複の使い分けがあり、単数であればadult childです。
それから、バクテリアやミトコンドリアなども、実は複数形。単数形は、それぞれbacterium、mitochondrion(発音は/màɪtəkɑ́ndriən/)です。それからイタリア語が語源のもので、パパラッチ(paparazzi)の単数形がpaparazzo、ティンパニー(timpani)の、単数形がtimpanoです(しかし、次の段落で述べるような、単数形で現れることの少ない名詞だとはいえるかもしれません)。
英語でも日本語でも複数形
日本語で複数形で定着しているもので、かつ英語でもそのまま複数で使ってよいものもあります。たとえば、ペアであることがふつうのものです。
シューズは、2つで1組なので、shoesという形で使われることが多いですね。ソックス(単数形はsock)、ブーツ(単数形はboot)、パンプス(単数形はpump)、楽器のマラカス(単数形はmaraca)などが、これと同じタイプです。ただし、靴屋さんは×shoes storeではなくshoe store、くつしたが片方落ちていたら、”Whose ×socks is this?” ではなく、”Whose sock is this?” と聞くことにはなります。これに対して、パンツ(pants)やタイツ(tights)は、常に複数形で、単数になることはありません。
「グッズ」も、英語でもgoodsと通例複数をとります。セールス(sales)、ルックス(looks)、オッズ(odds)、ガッツ(guts)などは、英語にしたときもふつう複数形で使われるものですが、これらは単数のときとは意味がちょっと違うので、辞書でしっかり調べてみてくださいね。
単複の使い分けを意識して
いかがでしたか? それと意識せず使っていたカタカナ語が実は複数形だったというパターンが、思いのほかあったのではないでしょうか。こういった例のうちかなりの部分をここに挙げることができたかと思いますが、他にもないかどうか、探してみてくださいね。
このコラムでは単複の使い分けが難しいカタカナ語を挙げましたが、実際には、カタカナ語に限った話ではありません。英語を話そうとするとき、すべての名詞について、可算か不可算か、可算名詞の場合は単数で使うべきか複数で使うべきか、考えなければなりません。
英語ができるようになりたければ、単複の使い分けは必須です。習慣になるよう心がけてください。そして、カタカナ語の場合は、単数形ではなく複数形のほうが定着してしまっているという、もう一段階トリッキーになっているケースがあるということを、知っておいていただければと思います。