和製英語とは、英語からできたカタカナ語であるにもかかわらず、英語には存在しない言い方であるものを指します。でも、英語にもちゃんと存在している単語なのに日本語とはかなり意味が違っているものも、実はかなり多いのです。この連載では、そういう単語をとりあげています。
今回とりあげた「ミス」も、英語のmissとはかなり意味がズレています。「ミス」という語とこの語にまつわることを、英語と日本語の両方から検討してみましょう。
日本語の「ミス」≠英語のmiss
まずは、日本語のミスの使い方を確認してみましょう。日本語のミスは、ご存じのとおり、「失敗すること」「間違えること」という意味ですね。
大きなミスなく仕事を終えることができた。
かんたんな計算でミスしてしまった。
これらの文中の「ミス」は、「失敗」「間違い」と読み替えてもおかしくなさそうです。でも、英語のmissは、これと同じような「失敗」「間違い」という意味ではありませんね。英語のmissは、なにかを「逃すこと」であり、「失敗」とか「間違い」という意味で使われることは、あまりありません。
I missed the last train. (終電を逃してしまった。)
I don’t want to miss the great opportunity. (そのすばらしい機会を逃したくない。)
のように使うのが基本です。
I finished the job without a big ×miss. (大きなミスなく仕事を終えることができた。)
I ×missed an easy calculation. (かんたんな計算でミスしてしまった。)
このように、「失敗」「間違い」という意味では、名詞としても、動詞としても、missを使うことはできません。
「ミス」を英語で表現するなら?~名詞の場合~
ミスを英語でいってもmissにならないのだとしたら、なんといったらいいでしょう? 多くの方が次に思いつくのは、mistakeではないでしょうか。
ミスを名詞の形であらわしたいときは、mistakeでだいじょうぶです。make a mistakeというのが「間違える」と言いたいときの、もっとも普通の言い方です。またはerrorでもよいでしょう。commit an errorというと、同じ「間違える」でも、かなりかたく響きます。
先ほどの例文は、名詞mistakeを使って、こんな感じに表現できます。
I finished the job without any big mistakes. (大きなミスなく仕事を終えることができた。)
I made a mistake in an easy calculation. (かんたんな計算でミスしてしまった。)
「ミス」を英語で表現するなら?~動詞の場合~
さて、mistakeを動詞として使うときはどうでしょうか。実は、名詞のmistakeは日本語の「間違い」「失敗」「ミス」などとあまり変わりませんが、動詞として使うときは、注意が必要です。
ここで問題です。次の4つの例文のうち、2つはmistakeを動詞として使うとおかしくなってしまうものです。mistakeを動詞として使ってもおかしくない例は、どれとどれでしょうか?
A. 部屋を間違える
B. 計算を間違える
C. 操作を間違える
D. 裏表を間違える
これは、mistakeの基本の意味をしっかり理解していればわかるんですよ。正解は、AとDです。
動詞のmistakeは、「失敗する」「やりそこなう」という意味で使われることは、基本的にありません。動詞の場合は、「(なにかとなにかを)とり違える」という意味なのです。AとDの例は、「目的の部屋を他の部屋ととり違える」「裏と表をとり違える」のように、「とり違える」という意味での「間違える」です。BとCは、「やりそこねる」「失敗する」という意味の「間違える」ですね。ですから、I ×mistook the calculation.とはいえないのです。BやCのケースでは、make a mistakeというフレーズを使うか、I did it wrong.(これは比較的くだけた言い方)のような別の表現をするとよいでしょう。
いかがでしょうか。あなたは「ミスした」「間違えた」と言いたいとき、正しい単語を選べていましたか? missもmistakeも、単語そのものを知らなかったという人は、ほとんどいないでしょう。その単語を知っているだけではなく、意味と使い方をきちんと理解しているか、ひとつひとつ、いっしょに確認していきましょう。
次回はmistakeの使い方について、もう少し掘り下げた話をしたいと思います。