「ミスする」「失敗する」を英語でいいたいときは、ちょっと注意が必要です。missという語は使えないことが多いですし、mistakeを使うにしても、基本的にはmake a mistakeのように、名詞の形で使います。しかも、mistakeを動詞で使うのは「とり違える」という意味のときのみで、「しそこなう」「失敗する」という意味のときには使えません。
ここまで読んで混乱してしまった方は、前回詳しく説明していますので、まずはそちらを読んでくださいね。
今日は、このmistakeという語の使い方を、もう少し詳しくみていきたいと思います。
私はこれまで英会話を教えるとき、生徒のみなさんに「mistakeは動詞として使うことはほとんどないので、基本的にはmake a mistakeという形で使ってください。」とお伝えしてきました。体感として、動詞のmistakeに出会うことは非常に少ないと感じていたからです。今回この稿を書くにあたって、このことをデータで検証してみました。
1.話し言葉では動詞のmistakeはあまり使わない
今回検証に使ったのは、Corpus of Contemporary American English(COCA)というコーパスです。コーパスとは巨大な言語データのことで、現在COCAは10億語近くにまでなっています。10億語分集められたさまざまなジャンルのテキストを検索できますので、英語の使われ方の実際を垣間見ることができます。
このCOCAを使って、「話し言葉では、mistakeが動詞として使われることは少ない」といえるかどうか、みていきたいと思います。まずは、こちらの図を見てください。
上の図は、COCAに現れたmistakeを名詞と動詞に分けて、それぞれどのようなジャンルのテキストの中に現れたのかを示したものです。
まず、名詞の方の丸をつけたところを見てみてください。名詞の使用例は「テレビ/映画」「話し言葉」がいちばん多く、次いでブログやウェブでもかなり使われていることがわかります。学術などのかたい文脈だと思われるものでは、使用例が少なくなっています。
それに対して、動詞の方では圧倒的に多いのは、「小説など」のジャンルです。そして、名詞と比べると、「話し言葉」で使われることが極端に少ないのが見てとれます。
この結果から、まずは「話し言葉では動詞のmistakeの使用例は少ない」と言ってよさそうに思えます。
2.動詞として使われる例は少数
今度は、動詞の中でも、さらにその内訳をみてみました。COCAでは、「動詞」と分類されるものには、現在形も過去形も、過去分詞も現在分詞もすべて含まれています。ですから、それらを用法ごとに分けて分類を試みた(注2)のです。
その結果、動詞とされているものの半分以上が、過去分詞のmistakenという形で、形容詞的に使われているということがわかりました。mistakenは、「誤って受けとられている」という受身の形容詞の場合もありますが、「(人が)思い違いをしている、間違っている」という意味で使われる例が、とても多いです。(たとえばYou are mistaken about it.は「あなたは誤解されている」ではなく、「あなたはそれを誤解している」の意。)
これらの形容詞的に使われる例、また成句として機能していると思われるものなどを除くと、「動詞として使われている」といえるものは、3割強という結果となりました。
動詞のmistakeの使い方
ジャンル別にみると、動詞のmistakeが話し言葉で使われることは、そもそも少ない。そして、その少ない例の内訳をみてみても、動詞として使われる例は、3割程度。ということで、「mistakeは動詞として使われることはあまりない」といっても差し支えないのではないでしょうか。これまで感覚で言ってきたことが、データでみても大きく間違っていないことがわかり、ホッとしました。今後は、「mistakeは動詞として使うことはあまりないので、基本的にはmake a mistakeという形で使ってください。」と、堂々と言っていこうと思います!
この数少ない動詞で使う例も、わりとかための文脈で使うことが多い、ということは、心に留めておいていただけるとよいと思います。話し言葉で、単純に「何かと何かをとり違えた」と言いたい場合は、mistakeの代わりにtakeを使うといいですよ。
He took me for my brother. (彼は私を兄と間違えた。)
I took somebody else’s umbrella for mine. (誰かのカサを間違えてもってきちゃった。)
もちろんこれをmistookに置き換えても問題はありません。でも、話し言葉であれば、こちらのほうがやわらかく響くと思います。そして、基本の使い方がわかったら、たくさんの例に触れて、ぴったりのニュアンスで使えるようになることを目指していきましょう。
〈出典〉
- Davies, Mark. (2008-) The Corpus of Contemporary American English (COCA). Available online at https://www.english-corpora.org/coca/
[注]
1. 過去分詞が形容詞的に使われているもの…約58%(486例)
2. there is no mistakingというフレーズ及びその変種とみられるもの…約6%(46例)
3. 動詞として使われているもの…約34%(283例)
4. 意味のとれなかったもの/アノテーションの不備…約2%(17例)