このカタカナ語、英語で言うと???

第21回 アピール(1)

筆者:
2022年4月12日

みなさんご存じの通り、多くのカタカナ語は英語から輸入されたものです。でも、その中には、元の英語の意味から離れ、日本語としての独自の意味を発展させているものがあります。「アピール」も、そんなカタカナ語のうちのひとつです。

日本語の「アピール」は、よくみてみると、実にさまざまな文脈で使われていることがわかります。まずは、日本語としてのアピールがどんな意味の広がりをもっているのか、みていきましょう。

日本語のアピール

日本語のアピールでもっともよく使われるのは、こんな場面ではないでしょうか。

新商品をテレビCMでアピールする。

入社面接で、自己アピールをする。

婚活では、まめなところをアピールしてみた。

このように、物や人の良さを知ってもらうために、話したり、行動で示したり、広告を打ったりして人に訴えかけることを、「アピールする」といいますね。

また、これと似ていますが、なにかに気づいてほしくて訴えかけることや、注意を引こうとすることも、アピールといいます。

忙しいアピールしてるのにぜんぜん気づいてもらえない。

後方の観客にも、大きく手をふってアピールした。

日本語でアピールというとき、最も多いのが、これらの使い方です(注1)。しかし、この使い方こそが、実は日本独自に発達した意味だということをご存じでしょうか。

英語のappealは自動詞

上に挙げたような例はどれも、「(物や人の良さを)アピールする」「(相手に気付かせるために)(知ってほしいことを)アピールする」というような、何かしらのことがらを、他動詞的に訴えかけるという意味です。しかし、これを英語でいうときにappealという動詞を使おうとすると、おそらくうまくはまらないでしょう。なぜなら、英語のappealは、自動詞だからです。

英語のappealは、主語にあたる物そのものが、人に対して訴えかけてくるようなときに使う自動詞です。

That idea didn’t appeal to me at all. (そのアイデアは、私にはまったくピンとこなかった。)

His latest book somehow appeals to young readers. (彼のいちばん新しい本は、なぜか若い読者にうけている。)

That new approach seemed quite appealing. (その新しいやり方は、とても魅力的に思えた。)

英語のappealは、基本的にその主語が、自動詞として魅力を発揮する、という意味なので、「面接で自己アピールをした。」というようなとき、×I appealed myself at a job interview.というような言い方をすることは、できないのです。

自動詞的な日本語の「アピール」

日本語でも、数はあまり多くありませんが、「アピール」という語を、自動詞である英語のappealのように使っている例もあります。

そのホテルは、外国人にアピールするよう改装された。

視聴率からすると、このドラマは大衆にアピールしたといってよい。

このような場合には、appealという語を使って訳しても、不自然にはならないでしょう。

日本語としてのアピールは、多くの場合他動詞的で、あるものごとの良さや、知ってほしい点などを伝えるためにとる言動や行動のことです。でも、英語のappealには、そういう意味はありません。次の回では、英語のappealの意味をもう少し詳しく把握できるよう、いっしょに辞書を読み解いていきましょう。

  1. 国立国語研究所 現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)より2000年代以降の「アピール」200例を調査すると以下のようになり、他動詞的に使う例が最も多いといえる。
       他動詞的なもの 約66%
       自動詞的なもの 約4%
       名詞 約25%
       不明 約5%
    (ちなみに「青空文庫(国立国語研究所 ひまわり版 形態素解析結果追加パッケージ)」に出現する「アッピール」「アピール」全62例を同様に調査すると、この割合は逆転し、自動詞的用法及び英語の「訴える」の意味に近いものが、他動詞的用法の5倍以上となる。質の異なるデータなので単純な比較は適切ではないかもしれないが、少なくとも50年は経っている青空文庫と比べ、BCCWJ(調査対象としたのは2000~2002年)では圧倒的に他動詞的用法が多くなっていることから、他動詞的用法は新しいものであり、日本語として独自に発展した用法であると推測できる。)

筆者プロフィール

武田 三輪 ( たけだ みわ)

日本語教育能力検定合格及び420時間の研修修了。外資系企業(ダイソン・ノキア等)で日本語教育に従事し、その後大手英会話スクールで日常会話、TOEIC800点コース、ビジネス英語等を担当。早稲田大学文学学術院博士後期課程中退。大学院では日本語学を修め、辞書についても研鑽を積んだ。現在はフリーランスの英会話講師として、日本語学の知識を活かした英文法、辞書指導に力を入れながら、話せるようになることに特化した指導をしている。
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編集部から

「日本語風の発音になってはいるけど、メールはmailでしょ」
では、そのまま英語として使えるのでしょうか。
もとの英語とカタカナ語との間にズレがあるもの、そもそも英語ではないもの、カタカナ語のなかにはいろいろあります。
発信が重視される昨今、このカタカナ語、英語で言うと……そんな疑問に答える連載です。