みなさんご存じの通り、多くのカタカナ語は英語から輸入されたものです。でも、その中には、元の英語の意味から離れ、日本語としての独自の意味を発展させているものがあります。「アピール」も、そんなカタカナ語のうちのひとつです。
日本語の「アピール」は、よくみてみると、実にさまざまな文脈で使われていることがわかります。まずは、日本語としてのアピールがどんな意味の広がりをもっているのか、みていきましょう。
日本語のアピール
日本語のアピールでもっともよく使われるのは、こんな場面ではないでしょうか。
新商品をテレビCMでアピールする。
入社面接で、自己アピールをする。
婚活では、まめなところをアピールしてみた。
このように、物や人の良さを知ってもらうために、話したり、行動で示したり、広告を打ったりして人に訴えかけることを、「アピールする」といいますね。
また、これと似ていますが、なにかに気づいてほしくて訴えかけることや、注意を引こうとすることも、アピールといいます。
忙しいアピールしてるのにぜんぜん気づいてもらえない。
後方の観客にも、大きく手をふってアピールした。
日本語でアピールというとき、最も多いのが、これらの使い方です(注1)。しかし、この使い方こそが、実は日本独自に発達した意味だということをご存じでしょうか。
英語のappealは自動詞
上に挙げたような例はどれも、「(物や人の良さを)アピールする」「(相手に気付かせるために)(知ってほしいことを)アピールする」というような、何かしらのことがらを、他動詞的に訴えかけるという意味です。しかし、これを英語でいうときにappealという動詞を使おうとすると、おそらくうまくはまらないでしょう。なぜなら、英語のappealは、自動詞だからです。
英語のappealは、主語にあたる物そのものが、人に対して訴えかけてくるようなときに使う自動詞です。
That idea didn’t appeal to me at all. (そのアイデアは、私にはまったくピンとこなかった。)
His latest book somehow appeals to young readers. (彼のいちばん新しい本は、なぜか若い読者にうけている。)
That new approach seemed quite appealing. (その新しいやり方は、とても魅力的に思えた。)
英語のappealは、基本的にその主語が、自動詞として魅力を発揮する、という意味なので、「面接で自己アピールをした。」というようなとき、×I appealed myself at a job interview.というような言い方をすることは、できないのです。
自動詞的な日本語の「アピール」
日本語でも、数はあまり多くありませんが、「アピール」という語を、自動詞である英語のappealのように使っている例もあります。
そのホテルは、外国人にアピールするよう改装された。
視聴率からすると、このドラマは大衆にアピールしたといってよい。
このような場合には、appealという語を使って訳しても、不自然にはならないでしょう。
*
日本語としてのアピールは、多くの場合他動詞的で、あるものごとの良さや、知ってほしい点などを伝えるためにとる言動や行動のことです。でも、英語のappealには、そういう意味はありません。次の回では、英語のappealの意味をもう少し詳しく把握できるよう、いっしょに辞書を読み解いていきましょう。
他動詞的なもの 約66%
自動詞的なもの 約4%
名詞 約25%
不明 約5%
(ちなみに「青空文庫(国立国語研究所 ひまわり版 形態素解析結果追加パッケージ)」に出現する「アッピール」「アピール」全62例を同様に調査すると、この割合は逆転し、自動詞的用法及び英語の「訴える」の意味に近いものが、他動詞的用法の5倍以上となる。質の異なるデータなので単純な比較は適切ではないかもしれないが、少なくとも50年は経っている青空文庫と比べ、BCCWJ(調査対象としたのは2000~2002年)では圧倒的に他動詞的用法が多くなっていることから、他動詞的用法は新しいものであり、日本語として独自に発展した用法であると推測できる。)