タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(62):Olivetti M20

筆者:
2019年8月1日
『L'Illustrazione Italiana』1921年8月14日号
『L'Illustrazione Italiana』1921年8月14日号

「Olivetti M20」は、イタリアのC・オリベッティ社が1920年に発売したタイプライターです。オリベッティ(Camillo Olivetti)とブルツィオ(Domenico Burzio)の設計による「Olivetti M20」は、イタリアの国産タイプライターとして、イタリア国内のみならず、世界大戦から復興しつつあったヨーロッパ各国へも数多く輸出されました。

「Olivetti M20」は、43キーのフロントストライク式タイプライターです。扇状に配置された43本の活字棒(type arm)は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段両端の「MAIU-SCOLE」(大文字シフト)キーを押すと、全ての活字棒が全体的に下がって大文字が印字されます。右側の「MAIU-SCOLE」キーの少し上には、シフト・ロック・キーがあって、「MAIU-SCOLE」キーを押し下げたままにできます。

「Olivetti M20」のキー配列は、各国モデルごとにそれぞれ異なっているのですが、ここではイタリア国内でのQZERTY配列を見ていきましょう。キーボードの最下段は、左右両端に「MAIU-SCOLE」キーがあって、大文字側にWXCVBN?./!が、小文字側にwxcvbn,;:òが並んでいます。その上の段は、大文字側にASDFGHJKLM%が、小文字側にasdfghjklmùが並んでいます。その上の段は、大文字側にQZERTYUIOP=が、小文字側にqzertyuiopìが並んでいて、右端にシフト・ロック・キーがあります。最上段は、大文字側に23456789&º+が、小文字側にé"'(_è^çà)-が並んでいます。数字が大文字側にあるため、数字の「1」は大文字の「I」で、「0」は大文字の「O」で、それぞれ代用することが想定されていました。キーボード最上段のさらに左上にあるのは、「RITORNI」(バックスペース)キーです。右上の赤と濃紺のキーは、インクリボンの赤黒を切り替えます。

当時のイタリアのタイプライター市場は、アメリカから輸入された「Remington Portable」「Corona 3」が、市場のかなりの部分を押さえていました。これに対抗すべくC・オリベッティ社は、イタリア国内のみならず、国外にも販売網を拡大する戦略に打って出ました。上の広告によれば、イブレアを生産拠点として、国内ではミラノ・ローマ・ジェノバ・ナポリ・トリエステ・トリノ・フィレンツェに、国外ではブリュッセル(ベルギー)・ロッテルダム(オランダ)・アレクサンドリア(エジプト)・ブエノスアイレス(アルゼンチン)・サンパウロ(ブラジル)・バタビア(オランダ領東インド)・上海(共同租界)に販売代理店を置き、世界中に「Olivetti M20」を売り込んでいったのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。