タイプライターに魅せられた男たち・補遺

広告の中のタイプライター(61):Smith-Corona Silent 5S

筆者:
2019年7月18日
『Life』1953年9月21日号
『Life』1953年9月21日号

「Smith-Corona Silent 5S」は、L・C・スミス&コロナ・タイプライターズ社が1949年に発売した静音ポータブル・タイプライターです。1934年発売の「Smith-Corona Silent」以後、同社はほぼ4年ごとに静音タイプライターのモデルチェンジを繰り返しており、特に1938年発売の「Smith-Corona Silent 2S」からは小型化の道をも探りました。5世代目にあたるのが、この「Smith-Corona Silent 5S」です。

「Smith-Corona Silent 5S」は、42キーのフロントストライク式タイプライターです。筐体内部にほぼ平らに配置された42本の活字棒(type arm)は、各キーを押すことで立ち上がり、プラテンの前面に置かれた紙の上にインクリボンごと叩きつけられ、紙の前面に印字がおこなわれます。通常の印字は小文字ですが、キーボード最下段両端のシフト・キーを押すと、全ての活字棒が全体的に下がって大文字が印字されます。左側のシフト・キーのすぐ上には、シフト・ロック・キーがあって、シフト・キーを押し下げたままにできます。インクリボンの色は、キーボード最上段の右横にあるトグルスイッチで、黒と赤を切り替えることができます。また、キーボード最上段の左横のトグルスイッチで、インクリボンの進行方向を変更できるので、同じインクリボンを往復で何度も、色が薄くなって印字できなくなるまで使うことができます。左側のプラテン・ノブの上にある大きなレバーは、プラテンを行頭に戻すと同時に、改行をおこなうためのものです。右側のプラテン・ノブの外側にある小さなレバーは、プラテンを中央に合わせるためのものです。

「Smith-Corona Silent 5S」のキーボードは、上の広告にも見えるとおり、基本的にQWERTY配列です。キーボードの最上段は、大文字側に"#$%_&'()*が、小文字側に234567890-が並んでいます。次の段は、左端にバックスペース・キーがあり、大文字側にQWERTYUIOP¼が、小文字側にqwertyuiop½が並んでいて、右端に「TAB」キーがあります。その次の段は、左端にシフト・ロック・キーがあり、大文字側にASDFGHJKL:@が、小文字側にasdfghjkl;¢が並んでいて、右端にマージン・リリース・キーがあります。最下段は、両端にシフト・キーがあって、大文字側にZXCVBNM,.?が、小文字側にzxcvbnm,./が並んでいます。数字の「1」は、小文字の「l」で代用することが想定されていたようです。

L・C・スミス&コロナ・タイプライターズ社は、静音ポータブル・タイプライターの後継機種として、新たに「Smith-Corona Skyriter」を開発しており、上の広告でも、右下に小さくSkyriterのロゴと挿絵を載せています。結果として「Smith-Corona Silent 5S」は、「Smith-Corona Silent」シリーズ中、最後のモデルとなったのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。