方言ネーミングの食品に,「いなか」を冠したものがあります。今回は,東北の岩手県と四国の香川県から1例ずつの,2例を紹介します。
「いなか」と言いましても,「在郷」に由来する方言のことです。三省堂の『大辞林』第三版で「在郷」を調べますと,二つの意味があり,その第1に「都会から隔たった地方。いなか。在。在所。ざいご。」とあります。これが主に,東北,北陸,北関東,四国,その他,各地の方言において,「ゼーゴ」「ゼゴ」「ゼンゴ」「ジェーゴ」「ジェゴ」「ジェンゴ」などの語形で使われています。
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今回の第1例は,この「在郷(いなか)」を方言ネーミングにしたお酒です。岩手県岩泉町(いわいずみちょう)の泉金酒造(URL=//www.ginga.or.jp/~senkin/)から発売されていました(現在,同社のラインナップには入っていないようです)。「ほんに じぇごの酒」です【写真1】。共通語に直すと「本当にいなかの酒」です。
方言の説明をします。この方言では,2つの母音が連続するところでは,融合します。この例では「在」の部分[zai]が「ゼー」となります。また,仮名の「せ」「ぜ」に相当する音節の具体音声は,古代音の残りで「シェ」「ジェ」となります。さらに,特殊音(長音,撥音,促音)が短く弱い音節構造(「シラビーム方言」と呼ばれます)なので,この場合,長音(のばす音)はほとんど出ません。よって,「在郷」は「ジェゴ」となっています。
第2例は,「在郷(いなか)」を方言ネーミングにしたうどんです。うどんと言えば讃岐,香川県高松市です。高松市の本家わら家(URL=//www.wara-ya.co.jp/)の中心商品「ざいごうどん」です【写真2】。この「ざいご」によるネーミングについては,同社のネットサイトで「ざいごうどんの“ざいご”とは「在郷(ざいごう)」(田舎・郷里にいる、といった意味)が訛った言葉です。直訳すれば、“いなかうどん”となります。」と明確に説明してあります。「ざいごうどん」は登録商標となり,ロゴタイプも定めています。
皆さんも,『在郷』の味を楽しんでみては如何でしょうか? ~その前に,「お酒は二十歳になってから」です。忘れないようにしましょう。