人名用漢字の新字旧字

第18回「礼」と「礼」と「禮」

筆者:
2008年8月28日

旧字の「禮」は人名用漢字なので、子供の名づけに使うことができます。新字の「礼」は常用漢字なので、やはり子供の名づけに使うことができます。つまり、「礼」も「禮」も出生届に書いてOK。ただし、以前は「礼」も使うことができたのです。

昭和23年1月1日の戸籍法改正時点では、当用漢字表には「礼」が収録されていて、直後にカッコ書きで「禮」が添えられていました。つまり、「礼(禮)」となっていたわけです。ただし、旧字の「禮」はあくまで参考として当用漢字表に添えられたものでしたから、子供の名づけに使ってはいけない、ということになりました。この時点では、「礼」だけが出生届に書いてOKだったのです。昭和24年4月28日、当用漢字字体表が内閣告示され、新字の「礼」が当用漢字になりました。これを受けて法務府民事局は、当用漢字表に加えて当用漢字字体表も子供の名づけに使ってよい、と回答しました(昭和24年6月29日)。この結果、「礼」と「礼」は出生届に書いてOKですが、「禮」はダメということになりました。

昭和56年3月23日に国語審議会が答申した常用漢字表では、「礼」の直後にカッコ書きで「禮」が添えられていました。つまり、「礼(禮)」となっていたわけです。これを受けて民事行政審議会は、常用漢字表のカッコ書きの旧字355字のうち、当用漢字表に収録されていた旧字195字だけを、子供の名づけに認めることにしました(昭和56年4月22日)。「礼」は当用漢字表に収録されていましたが、常用漢字表のカッコ書きに含まれていないので、子供の名づけに使えなくなってしまったのです。昭和56年10月1日、常用漢字表の内閣告示と同時に、新字の「礼」だけが出生届に書いてOKで、「礼」と「禮」はダメということになりました。

法制審議会のもと平成16年3月26日に発足した人名用漢字部会は、当時最新の漢字コード規格JIS X 0213(平成16年2月20日改正版)、平成12年3月に文化庁が書籍385誌に対しておこなった漢字出現頻度数調査、全国の出生届窓口で平成2年以降に不受理とされた漢字、の3つをもとに審議をおこないました。平成16年8月25日、人名用漢字部会は、人名用漢字の追加候補488字を選定し、法制審議会に報告しました。この488字の中に、旧字の「禮」が含まれていました。「禮」は、「榮」「堯」「凛」と同じく、漢字出現頻度数調査の結果が50~199回の範囲内で、全国50法務局のうち8以上の管区で出生届を拒否されたことがあって、しかもJIS X 0213の第2水準漢字だったので、追加候補となったのです。

平成16年9月27日、戸籍法施行規則は改正され、これら追加候補488字は全て人名用漢字になりました。旧字の「禮」も人名用漢字になり、それ以降は「礼」も「禮」も出生届に書いてOKなのですが、「礼」だけはダメなのです。

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター准教授。京都大学博士(工学)。JIS X 0213の制定および改正で委員を務め、その際に人名用漢字の新字旧字を徹底調査するハメになった。著書に『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字コードの世界』(東京電機大学出版局)、『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

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