このカタカナ語、英語で言うと???

第18回 サービス(2) ~辞書でcheck! 編~

筆者:
2022年2月15日

この前の回では、日本語のサービスは、そのままserviceに置き換えられる場合と置き換えられない場合がある、ということを述べました。この回では、英語のserviceの方をみてみたいと思います。

serviceという語の使い方は多岐に渡っていて、少ない辞書で10前後、多いものだと30近くものブランチに分けて説明されています。そこで、いくつかの英語学習者向けの辞書を総合して、覚えておくべきだと思われる意味を、以下の表のように絞って検討してみました(注1)

この表は、英語のserviceの主要な意味を、A~Jに分けて表示し、右側の列に、それぞれの意味が「サービス」という日本語で表現できるかどうか(注2)を示しました。ここに○がついているものは、前回のコラムですでに詳細が示してありますので、ぜひそちらを合わせてお読みくださいね。そして、この表で×がついているものは「日本語と意味領域がズレている部分」ということになります。

Aは、「○/×」としましたが、基本的に公益事業は、行政サービス(public services)、医療サービス(medical service)などのようなものはカタカナで「サービス」といえそうです。しかし、gas serviceやwater service、bus serviceなどを「ガスサービス」「水道サービス」「バスサービス」のようにいうことはあまりなく、個々の業務についていうときには「サービス」という語はあまり使わない、といっていいのではないでしょうか。

Eの「仕事(技能/功績)」としたところは、たとえばこんなふうに使うときです。

 

  • He joined the fire service.(彼は消防の仕事についた。)
  • We need the services of a good counselor.(よいカウンセラーにかかる必要がある。)
  • We would like to appreciate her 30 years of service to the library.(彼女がこの図書館に30年間尽くしたことを感謝したいと思います。)

 

仕事やその技能、またその仕事を務めることなどは、日本語では「サービス」とは言いませんね。

Fは、serviceが「軍隊の仕事」「兵役につくこと」などを指す場合です。この場合のserviceは、「軍人が軍に対して、また国家のために働くこと」を意味します。この表現は、意外と日常語としての頻度が高いので、多くの学習辞典でもとりあげられているのですね。日本では、軍務や兵役といった言葉は日常生活の中ではあまり使いませんが、たとえばアメリカでは、ごく普通のチェーン店でも「military証を見せれば10%オフ」「今月はmilitary familiesはシェイク1杯無料」といった広告などをよく見ます。そんなわけで、日常会話に登場する頻度も思いのほか高いので、serviceが軍務をあらわすということは、覚えておけば役に立つかもしれません。

Gの「機器類の点検」は、車やコンピューターなどを点検し、必要に応じて修理をしたりすることをserviceと呼ぶ、ということです。これを日本語でいった場合はBの下位分類のサービスに入れてよさそうですが、このGの意味のときはserviceを動詞として使うということもあり(例:I got my car serviced.)、独立したブランチを立てている辞書が多いです。(注3)

Hは、たとえばThe self-checkout machines are out of service at the moment.(セルフレジはただ今使用できません。)というような場合です。稼働している状態は、in serviceといえます。最近では、日本でも回送のバスに”Out of Service”という表示が出るものもありますね。

Iの宗教的儀式とは、たとえばキリスト教の礼拝などのことを指します。ミサという言い方を思い出す方もいるかもしれませんが、これはラテン語またはポルトガル語から入った語形で、カトリック教会の用語です。朝の礼拝はmorning service、お葬式はa funeral serviceのようにいうことができます。

このあたりまでを押さえておくと、serviceという語の全体像が、だいたいみえてきているのではないでしょうか。辞書によって少しずつ分類のしかたも異なりますし、もっといろいろな例が載っていますから、ぜひお手持ちのもので引いて、serviceの語義や使い方を確かめてみてください。

そして、日本人にもっとも多い間違い――「店などが客に対して無料にしたり、割引きにしたり、おまけをつけるなどすること」をserviceといってしまうこと――をおかさないよう、気をつけてくださいね。

[注]

  1. この稿の対象者は英語学習の途上にある人と考え、以下の点を踏まえて、下記に挙げた主な学習辞典の中から、日本語の「サービス」と対比させたとき知っておくべきと考えられる語義を選定した。
    ・すべての辞書が採用していること
    ・(古)などがついていないこと
    また、ブランチの分け方は辞書により異なるため、適宜分離したり統合したりしてある。
      
    <参照>
    三省堂『ウィズダム英和辞典 第4版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2019)
    旺文社『オーレックス英和辞典 第2版』iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2017)
    大修館書店『ジーニアス英和辞典 第5版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2017)
    “COBUILD Advanced Learner’s Dictionary 9th Edition” HarperCollins Publishers (2018)  iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2019)
    “Oxford Advanced Learner’s Dictionary 10th Edition” Oxford University Press (2020)  iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2020)
    “Longman Dictionary of Contemporary English 6th Edition” Pearson Education Limited (2015) iPhoneアプリ Enfour版 (2020-21)
  2. 言語表現において、正解はひとつということはないので、「常にサービスという訳語を用いる」ことを意味しない。
  3. ただし、自動車の修理工場は「**サービス工場」という名がついているものが多く、この場合の「サービス」はGの意味で使われているといってよさそうである。ただし、会話などでの一般的な使用には至っていない。

筆者プロフィール

武田 三輪 ( たけだ みわ)

日本語教育能力検定合格及び420時間の研修修了。外資系企業(ダイソン・ノキア等)で日本語教育に従事し、その後大手英会話スクールで日常会話、TOEIC800点コース、ビジネス英語等を担当。早稲田大学文学学術院博士後期課程中退。大学院では日本語学を修め、辞書についても研鑽を積んだ。現在はフリーランスの英会話講師として、日本語学の知識を活かした英文法、辞書指導に力を入れながら、話せるようになることに特化した指導をしている。
URL:https://www.takedamiwa.com/
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Twitter:https://twitter.com/takedamiwa

編集部から

「日本語風の発音になってはいるけど、メールはmailでしょ」
では、そのまま英語として使えるのでしょうか。
もとの英語とカタカナ語との間にズレがあるもの、そもそも英語ではないもの、カタカナ語のなかにはいろいろあります。
発信が重視される昨今、このカタカナ語、英語で言うと……そんな疑問に答える連載です。