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第65回【米国第一】べいこくだいいち

筆者:
2025年1月27日

[意味]

米国の利益を最優先とした政策の実行。米国第一主義。

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1月20日、ドナルド・トランプ氏が米国の第47代大統領に就任しました。2024年11月の大統領選挙で再選を果たし、4年ぶりに2期目の任期がスタート。2025年はあらためて「米国第一」がキーワードになると予想されます。

グラフを見てください。記事データベースの日経テレコンで2000年以降に日本経済新聞朝夕刊に「米国第一」が出現した記事件数を1年ごとに示したものです。2000年から2015年の16年間で「米国第一」が紙面に登場したのはわずか3件。これが、トランプ氏が1回目の大統領選に出馬し当選した2016年に突如90件に跳ね上がると、大統領に就任した翌2017年は最多の419件を記録しました。

以降はやや減少傾向となり、バイデン政権下ではさらに数は少なくなり2桁が続いていましたが、トランプ氏が大統領への返り咲きを決めた2024年は前年の約4倍の127件にもなりました。「米国第一」はまさにトランプ氏とともにある語のように感じられます。2017年のユーキャン新語・流行語大賞トップテンに「○○ファースト」が選ばれたのも、トランプ氏が繰り返し発した「アメリカ・ファースト(米国第一)」が影響したものです。

「米国第一」は、米国が自国経済の立て直しを最優先し、国際社会での安全保障や通商秩序への関与をやめ、負担を引き受けないという政策。かつては第2次世界大戦への米国参戦に反対するスローガンなどとしても使われたことがありましたが、2016年のトランプ氏の登場で一気に広まりました。

第1次トランプ政権では、輸入関税の引き上げや環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しなどといった「米国第一」政策が実行に移されています。2期目では就任直後から大量の大統領令に署名し、パリ協定、世界保健機関(WHO)からの離脱などバイデン前政権からの政策転換を打ち出しました。

世界を翻弄し続けるトランプ大統領。2025年は「米国第一」の出現記事がかなり増えるといえそうです。

【米国第一】べいこくだいいち

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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