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第66回【経年美化】けいねんびか

筆者:
2025年2月24日

[意味]

年月を重ねるほど美しさが増すこと。住宅の外観などについていうことが多い。(大辞林第四版〈データ版〉から)

[対義]

経年劣化

 * 

2025年1月1日。日経MJ(流通新聞)を読んでいて目に留まったのが「経年美化」の見出しでした。創業200年超、輪島塗の老舗・田谷漆器店(石川県輪島市)代表の田谷昂大さんを紹介した記事で、輪島塗の強みは「経年劣化ではなく経年美化すること」とありました。

自然素材の漆を用いた輪島塗の製品は使い続けると、時間の経過とともに色合いが美しく変化するとされます。使い込むことによって風合いが出てくる、それが美しさということなのですね。大辞林の「経年美化」の語釈に「住宅の外観などについていうことが多い」とありますが、確かに歴史ある建築物には、木材の色の変化やその光沢で独特の味わいを感じさせるものがあります。

新聞記事データベース、日経テレコンで「経年美化」の出現記事を見てみると、日本経済新聞朝夕刊(2024年まで)ではわずか2件。対象は、ペルシャじゅうたんと陶器、住宅でした。いずれも長い年月に使い、きちんと手入れをするということが共通していました。

日本新聞協会の会合で、他社の校閲記者が座る席に置いてあった用字用語集が、見事なまでに使い込んでいるなと感じさせるものでした。何度も何度もページを繰る様子が伝わってくる汚れ具合がまた美しい。刊行から5年くらいでしょうか、これもまた「経年美化」なのかもしれません。私の職場には何年たっても新品同様の人がいますが……。

「こんなに使ってくれたんだ」。1999年11月4日、職場の勉強会の講師に大辞林初版編集部編集長の倉島節尚・大正大学教授(当時)を招いた時のこと。講演前に書棚にあった使い込まれた大辞林初版を見てもらうと、うれしそうな表情をされたことが忘れられません。辞書や用語集は何年も使い込むことによって美しくなり、その価値が見えてくるものだと思っております。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。1990年、日本経済新聞社に入社。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書に『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『方言漢字事典』(項目執筆、研究社)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)などがある。日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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