(菊武学園タイプライター博物館(11)からつづく)
菊武学園タイプライター博物館には、「Hammond No.1」も展示されています。「Hammond No.1」は、ハモンド(James Bartlett Hammond)が開発したタイプ・シャトル式タイプライターで、1884年から1895年頃にかけて製造されました。中央の円筒内部に、タイプ・シャトルと呼ばれる2枚の活字板が組み込まれており、各々の活字板には、15行×3列=45字の活字が埋め込まれています。すなわち、2枚のタイプ・シャトルに、合計90種類の活字が埋め込まれているわけです。菊武学園の「Hammond No.1」のタイプ・シャトルでは、上の列には英小文字と?,.:が、真ん中の列には英大文字と!;-&が、下の列には数字とその他の記号が、それぞれ埋め込まれています。
菊武学園の「Hammond No.1」のキー配列は、左上段がzqjbpfd、左下段が?xkgmcl,、右上段がthrsuwv、右下段が.aeiony:と並んでおり、かなりユニークな配列です。各キーを押すと、対応するタイプ・シャトルが紙の方へと回転移動し、紙の背面からハンマーが打ち込まれることで、紙の前面に印字がおこなわれます。中央の「CAP.」キーを押すと、タイプ・シャトルが少し上がって、真ん中の列の活字(英大文字など)が印字されるようになります。「FIG.」キーを押すと、タイプ・シャトルがさらに上がって、下の列の活字(数字とその他の記号)が印字されるようになります。これにより、90種類の文字を打ち分けることができるのです。
「Hammond No.1」は、紙の背面からハンマーを打ち込む機構だったため、分厚い紙には印字できないという弱点を抱えていました。それを少しでも補うために、「Hammond No.1」のハンマーには、半円形のベルのような重りがついています。また、印字直後の文字は円筒の陰になっていて見ることができず、何文字か打った後で円筒の左側に現れてくる、という点も「Hammond No.1」の弱点でした。しかしながら、タイプ・シャトルを交換することで、他の言語やキー配列にも簡単に対応できる、という強みがあり、そこそこのシェアを「Hammond No.1」は獲得していたと考えられます。