前回(第243回を参照)、青森で買った『青森方言豆知識』というお菓子が、実は遠く離れた岐阜県で作られていると紹介しましたが、そのことに気付いたのは、その後に北陸は富山大学であった学会に出席した折に、市内のみやげもの売り場で、青森のそれと非常によく似たせんべいを見つけたからでした。
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これには、富山県の東部と西部の方言の違いが包装紙に書かれています。
富山県を東西に分けた地図が中央にあり、東に26語、西に25語の特徴的な方言が並んでいます。「東」の右下には「越中食菜」として10語の食べ物に関する方言が、「西」の左上には「富山湾魚介」として7語が示してありますが、これは東西というよりは陸と海との代表的なものをその位置にまとめて挙げたものでしょう。ただし、陸の寒天料理には地域差があるようで、(東)べっこー、(西)えびす、と併記して対照してあります。
地元富山市の販売元から、製造元だという岐阜県の製菓会社を紹介してもらい、電話をして聞いたら、この『○○方言豆知識』せんべいは、全国各地に非常に多くのバージョンがあることがわかりました。
発売地域は2010年10月の青森からスタートして全国に及んでおり、これまでに(北から南に並べると)、青森、秋田、岩手、宮城、栃木、群馬(水上)、千葉、山梨、信州、静岡、箱根、愛知、伊勢志摩、滋賀、奈良、紀州、富山、富山(氷見)、石川、福井、岡山、広島、出雲、山口、香川、愛媛伊予、土佐、博多、大分、宮崎、の何と30地域もの版があるとのこと。(平成25年3月現在)
中には、群馬県水上、箱根、富山県氷見のように、ごく狭い範囲を対象にしたものもあります。
そもそもの発想の元は「豆の入ったお菓子」と、ちょっとした知識=「豆知識」とをかけた、ことば遊びの連想からスタートして企画されたものだということです。
包装紙に載せる方言は、地元での販売元(店)などからの情報や推薦に基づき、地域によっては方言研究者に委託して選定している場合もあるということでした。
先の富山版の場合には、地元の方言研究者・簑島良二さんの協力を得て、選定した由。
短期間のうちに、こんなにも全国的な広がりを持ったことは、ちょっとした驚きですが、手ごろな値段で、日保ちもするし、運ぶのにもそう重くない、といった条件が揃っており、何よりおいしいお菓子を提供としようと努力している姿勢が販売店(やお客さん)に伝わり、評価されてのことでしょう。
特に旅行者の場合などは、旅先で初めて目にし手にして選ぶわけで、せっかくお土産に買って帰るのなら、やはりその土地らしさが感じられるものがいいと思うのは誰しも考えること。「方言」はその点、いかにもその地域らしさが伝わってくるので、うってつけともいえる素材です。
旅行から帰り、包装紙に書かれた今回の旅先の方言を話題にしながら、お茶を片手に土産話を楽しむ。そんなときに、ちょっとした豆知識も得られたら……。なかなかうまい着眼点ではないでしょうか?
これまでにこの連載で紹介した各地の『方言ゆのみ』や『方言のれん』、『方言トランプ』などを見ていると、生地やタッチや絵柄など、作り方が非常によく似ていて、「これはきっと同じ製造元で作られたものに違いない」と思うことがあります。
“薄利多売”でないとなかなか採算が取れないようなものほど、どこかにある特定のメーカーが全国各地のバージョンを一手に作っているという、その“舞台裏の一端”を見たような体験でした。