前回は、数量表現の基本パターンを「極細分類」まで、やや屋上屋を架すような分類をしてきましたので、今回は、英文和訳というよりも、和文英訳の際に役に立つような項目だけを取り上げてみようと思います。したがって、分類そのものは、現状の「トミイ方式」よりは少なくなりますが、内容に重点をおいて説明して行きたいと思います。
今回取り上げる項目は以下の通りです。
1 数と量
2 基数詞と序数詞
3 小数と分数
4 単位
5 以上・以下、超え・未満
これ以外に、数量表現周りの表現として、最大・最小、以内、概略、間隔、範囲、比、平均、合計、四捨五入、?当たりなどなどいろいろありますが、これらについては触れることができません。ご興味のある方は『英語数量表現辞典』(三省堂)をご参照ください。
1 数と量
英語では「数」と「量」の扱いが日本語とは比べ物にならないくらい厳密です。例えば、日本語の「たくさんのボート」は英語では many boats です。しかし、「たくさんの水」は much water です。このように、日本語では、boat のように可算名詞であろうと water のように不可算名詞であろうと、形容詞は「たくさん」ですが、英語では、boat のように可算名詞ならば形容詞は many であり、water のように不可算名詞ならば much です。この厳密さが「単数・複数」にも、「冠詞」にも響いてきます。
このようなことはまだ序の口で、この違いは、広範囲の品詞に関係してきます。例文をたくさん集めることにより、その「違いの概念」をマスターできるようになりますが、これをおろそかにしておくと、後々、和文英訳にとっては、ボディーブローのようにきいてきます。
2 基数詞と序数詞
1 基数詞
基数詞とは、1、2、3、というものです。この用法にはいろいろなルールがあります。英文和訳の際には、あまり面倒なルールはありませんが、和文英訳の際には、いろいろなルールがありますので気を付けなければなりません。
(i) 文頭の数値
原則的には文頭に数詞を置いてはいけません。どうしても置かなければならない場合には、その数値を綴るか、数値が文頭に来ないように、文構造を変えなければいけません。
(a) その数値を綴る
例えば
45 students are in our class. → Forty-five students are in our class.
すぐ後の (ii) で示すように、「1ケタの数字――9以下という説もある――で後ろに可算名詞が来る時は、数値は綴らなければならない」というルールもありますが、そのルールよりも、このルールの方が優先すると考えて差支えありません。
(b) 文を変える
45 students are in our class. → There are 45 students in our class.
(ii) 1ケタの数[10未満の数]
(a) 後ろに可算名詞が来る時
必ず綴ります。
例 three desks,four rooms,five persons
(b) 後ろに単位記号が来る時
数詞で表わします。
例 2 kg/cm2、100 VAC、60 km/h
(c) 1ケタの数[10以下の数]の数詞と2ケタの数[10を超える数]が1つの文の中で隣接して混在する時
次のようないろいろな説があります。
① 前者を綴り、後者を数字で表わす
例 This system consists of two to 16 processors.
② いずれも数字で表わす
例 This system consists of 2 to 16 processors.
③ いずれも綴る(ただし、いずれも、1ケタの数[10未満の数]の数字の場合
例 This system consists of two to eight processors.
(iii) 異なった2つの異なる数値――普通、前の数字が「数」を表わし、後者が「量」を表わす――を併記する時
これにも、いろいろな説があります。
(a) いずれか一方を綴る(あまり一般的ではありません)
例 5 five-gallon drums
(b) 数の小さい方を綴る(これが最も普通な書き方です)
例 five 5-gallon drums
(c) 前の数字――「数」を表わしている数値――には数詞を使い、後の数字――「量」を表わしている数値――を綴る
2 序数詞
序数詞とは、first、second、third、というものです。
(i) 1番目、2番目、3番目などを表わすもので、英語では、その前には、必ずtheを付けて使用します。
(ii) 序数詞の前に不定冠詞が付くこともあります。その時は、順番、順序、序列などを表わすのではなく、単に、「もう一つの~」というような意味です。
3 小数と分数
一般に「小数」はより厳密な数値を表示することができ、それに対し「分数」は、粗い「数量」しか表わすことができない。
それよりももっと大事なことは、これは特に「分数」について言えることですが、1未満の「分数」が後ろに「数」を表わしている名詞(すなわち、可算名詞)を伴うか、「量」を表わしている名詞(すなわち、不可算名詞)を伴うかによって、その名詞が複数形になるか単数形になるか違ってくるということです。
例を挙げてみます。
○「分数」の後ろに「可算名詞」が来ている場合
Nearly 1/4 of the respondents were female.
たとえ1/4であっても、「回答者」の1/4であるということは、「回答者」の数が4人以下である場合は別として、常識的には何十人、何百人いるものと考えられますので、その全体の1/4ならば、当然、複数人であろうということは想像がつきますので、1/4 of the respondents は複数扱いとなります。したがって、この主語を受ける動詞は was ではなく were になります。
○「分数」の後ろに「不可算名詞」が来ている場合
Three quarters of the surface area of the product is new surface that ….
Three quarters というのは3/4を綴ったものです。surface area は「表面積」で、数えられない名詞ですから、2倍であろうと3倍であろうと、また1/2であろうと3/4であろうと単数扱いとなり、この主語を受ける動詞は are ではなくisになります。
「小数」や「分数」は、それがどんな使い方をされているものであれ、たくさん例文が集まるまでは、しばらく、すべての例文を収集しておくと、必ず、後で学習の対象になると思います。
4 単位
「単位」は、まず最初に出てくる問題は、単位記号で書くか、綴るかということです。それ以外にも、「単位」には、下に示すようにいくつかの大事なルールがあります。
○ 数値と単位の間にはスペースを空ける。ただし、oCやoF、′ や ″ 、%などは空けない
○ 単位記号には複数形はない
○ 単位記号にはピリオドは打たない。ピリオドを打つのはインチだけ(in.)
○ 数値を数字で書く場合は、単位は必ず記号で書き、綴ってはいけない
これらのルールは、和英翻訳の時には絶対に守らなければなりません。日頃、たくさんの例文を集めておくと、正しい英文を書くことができるようになります。
「単位」と似たものに「準単位」というものもあります。これは者を数えるときに使うもので、その表現方法は、日本語と著しく異なっていませんので、これも、日頃から、集めるように心しておくとよいと思います。
5 以上・以下、超え・未満
ここで詳しく述べる余裕はありませんが、「以上・以下」、「超え・未満」は、日本語と英語の対応関係に注意が必要です。日本語の「以上・以下」は英語の more than,less than と同じだと思っている人が意外に多くいますが、英語の more than,less than は日本語の「超え・未満」と同じ表現です。
この点を理解していただくと、初心者がよく間違える more than one … という表現を勘違いすることが無くなります。
例えば、more than one person といった場合、初心者は、よく、これを「一人以上」と訳してしまいます。ここでも、「数」として扱うものと「量」として扱うものとの違いをよく理解しておかないといけないのですが、これは正確には「二人以上」なのです。混ぜならば、more than は 「…を超え」であり、一方「人」というのは「数」として扱うもので、「一人を超えること、即、二人以上」になるからです。
それならば、more than one pound はどうでしょうか。pound は「ポンド」という単位ですから「量」として扱うものであり、「1ポンドを超えること、即、2ポンド以上」にはなりません。したがって、この場合には、「2ポンドを超える」としなければなりません。
要するに、全く同じではなく、若干ニュアンスは違いますが、意味的には、more than one の後ろに「数」として扱うものが来ている場合には
more than one —- イコール two or more —-s
ということになります。日頃、英文を注意深く見ていると、
more than two —-s イコール three or more —-s
more than three —-s イコール four or more —-s
というような例文が、面白いように集まってきます。
さらに、「数量語句まわりの表現」として、「最大(高)、最小(低、少)」、「以内」、「概略」、「平均」、「合計」、「四捨五入(まるめる)」、「~あたり(~ごとに、~につき、毎~)」など、文字通り、「数量語句まわりの表現」をたくさん集めると、表現の種類とその意味・用法の差異、さらには、よい表現と悪い表現などの学習ができ、それがさらに、和英翻訳の際に活用できるようになります。