第239回で台湾の“おでん”が話題になりました。歴史をたどりましょう。関西弁のアジア進出の適例です。「黑輪olen」は関西の串刺し「おでん」の形を保っているし、「關東煮」「关东煮」guān dōng zhŭは関西弁の「かんとだき」の進出なのです。
起源は豆腐の串刺しです。一本足の「田楽踊り」にちなんで、関西で「おでん」と名づけられました。一方江戸では《煮込みおでん》が「おでん」と呼ばれました。これが関西に伝わって、区別のために「かんとだき」〈関東煮〉と呼ばれました。
これが東アジアに広がります。台湾語(閩南ミンナン語)ではダ行音とラ行音の区別がないので、日本語の「おでん」が「オレンolen」と発音され、「黑輪」(中国語の当て字)と書かれました。屋台料理だったので、植民地時代からあったかもしれません。李仲民さんと郭碧蘭さんの調査では、台湾の7-11が1985年に「黒輪 おでん oden」を”關東煮”として導入し、2007年から全面的に販売したそうです。
【写真1】は1998年の台湾での写真です。略字の「関東煮」とひらがなの「おでん」で、日本らしさを示しています。右に「黑輪olen」(繁体字)の写真があります。形は田楽刺しを伝えています。この写真によると、台湾の「關東煮」と「黑輪」は、上位概念と下位概念(全体と部分)の違いがあるようです。
中国(大陸)にも伝わりました。中国のインターネット検索サイト「百度」baidu www.baidu.jp/ でも情報検索ができます。「1997年中国大陸の日資本コンビニ(便利店)の罗森(羅森Lawson)がおでんを大陸に取り入れ」たのだそうです。インターネットで「关东煮」の画像を検索すると写真がたくさん出ます。いくつかは日本風を強調しています。
グーグルトレンドGoogle trends www.google.co.jp/trends/exploreのグラフで「关东煮」の最近の増え方が分かります。また地図を見ると、中国の海岸部だけです。日本との交流の多いところに先に普及したのです【図2】。
なお韓国語でも「오뎅」オデンと言いますが、中のかまぼこのことだそうです。
関西弁は世界各地に進出しています。インターネットジャーナルDialectologiaにもokini, maidoなどの世界地図が掲げられています(ただダウンロードに時間がかかります)。
www.publicacions.ub.edu/revistes/ejecuta_descarga.asp?codigo=725
編集部から
皆さんもどこかで見たことがあるであろう、方言の書かれた湯のみ茶碗やのれんや手ぬぐい……。方言もあまり聞かれなくなってきた(と多くの方が思っている)昨今、それらは味のあるもの、懐かしいにおいがするものとして受け取られているのではないでしょうか。
方言みやげやグッズから見えてくる、「地域語の経済と社会」とは。方言研究の第一線でご活躍中の先生方によるリレー連載です。