最近は,学校におきましても,方言の拡張活用の例が認められます。学校とは,以前ですと,共通語を教育する中心的機関と認識されていましたので,このような動きは,画期的なことと思います。
この連載で私は,これまでに,学校における方言の拡張活用例を2例紹介しています。第121回:岩手県盛岡市の岩手大学内の,学生と社会人の交流企画の「かだる」と,第166回:岩手県立宮古高校の文化祭ポスター「がんばっぺ宮高」です。それぞれ,その回のテーマの一例として紹介しました。今回は,このほかの,学校での使用例です。
最初の例は,小学校です。地域に関する学習の一つが動機になっているものと思われます。岩手県宮古市の宮古小学校です。来客用入り口に,「ようこそおでんした」(ようこそいらっしゃいました)の歓迎の方言メッセージが掲げられています【写真1】。つまり,この小学校を訪れるお客さんは皆,このメッセージに迎えられるというわけです。
第2例は,PTAの標語です。青少年健全育成活動標語で,宮古市の入賞3作のうち1作に選ばれた中に,方言を使ったものがありました。「『やめっぺす』勇気ある君 友救う」です【写真2】。「やめっぺす」の意味は「やめましょう」です。これは,方言エールのところでも,述べたことですが,方言で伝えたほうが,友人の心に確かに伝えることができる,ということから使われたものと思われます。
第3例は,大学での例です。岩手県滝沢村の岩手県立大学では,昨年10月の大学祭のテーマを「維新~んだば、やってみっぺし~」としました【写真3】。方言の部分の意味は,「それならば,やってみましょう」です。このテーマを決めるときには,私も,関わりました。
ここで,第2例と第3例のおしまいの「―ぺす」と「―ぺし」について少し説明します。これは,古代語の「―べし」に由来する表現で,丁寧な勧誘を表す方言です。東北弁では「―べー」とか「―っぺ」が勧誘の表現に使用されますが,それらより丁寧なのです。「―べし」の原形に近いもので,原形に近いほど丁寧度が高い,という日本語の敬語の原則によるものです。
皆さんご自身が通っている(または,通っていた)学校,あるいは,お住まいの近くの学校にも,方言の拡張活用例があるかもしれません。ぜひ,注意して見つけてみましょう。見つけましたら,私たちに教えてください。