タイプライターに魅せられた男たち・番外編第15回

タイプライター博物館訪問記:伊藤事務機タイプライター資料館(4)

筆者:
2016年3月31日

伊藤事務機タイプライター資料館(3)からつづく)

伊藤事務機の「Williams No.2」
伊藤事務機の「Williams No.2」

伊藤事務機タイプライター資料館には、「Williams No.2」(製造番号11165)も展示されています。「Williams No.2」は、1897年から1900年頃にかけて、ウィリアムズ・タイプライター社が製造していたタイプライターで、独特の印字機構を有しています。ウィリアムズ(John Newton Williams)が発明したこの印字機構は、活字棒の動作が、まるでバッタが跳ぶような軌跡を描くことから、グラスホッパー・アクションと呼ばれています。キーを押すと、対応する活字棒がインク溜めを離れ、いったん上方へと上がったあと、プラテンの上へと伸びていって、プラテンに打ち下ろされます。プラテンの上に置かれた紙の上面に印字がおこなわれるので、打った文字がその瞬間に見えるのです。

「Williams No.2」のグラスホッパー・アクション
「Williams No.2」のグラスホッパー・アクション

「Williams No.2」の印字機構やキー配列は、「Williams No.1」(Straight Keyboard Model)とほとんど違いがありません。グラスホッパー・アクションは、機構上、活字を密集することができないため、28本の活字棒はプラテンの前後に14本ずつ配置されています。紙をプラテンにセットするのにも手間がかかり、プラテンの手前(活字棒の下)に、紙を丸めて入れておく必要があります。また、打った後の紙は、プラテンの奥に丸まって吸い込まれていくため、打った文字は、実際には1~2行分しか見えない上に、打った後の紙を取り出すのが面倒という弱点があります。28個のキーは、いわゆるQWERTY配列で直線的に配置されています。各活字棒の先には、それぞれ3種類の文字が搭載されていて、合計84種類の文字を印字できます。キーボードの左端には2種類のシフトキーがあり、手前のシフトキーを押すとプラテンが奥に、奥のシフトキーを押すとプラテンが手前に、それぞれ移動し、各キーごとに3種類の文字が印字できるようになっているのです。

伊藤事務機の「Williams No.2」のキーボード
伊藤事務機の「Williams No.2」のキーボード

印字機構には違いがないのですが、「Williams No.2」と「Williams No.1」は見た目が違っているので、簡単に見分けることができます。「Williams No.2」の前面上部にある銘板は、「Williams No.1」より、かなり小さくなっているのです。背面上部の銘板も同様で、この結果「Williams No.2」の方が、ややチープな印象を受けるのは否めません。

伊藤事務機の「Williams No.2」背面
伊藤事務機の「Williams No.2」背面

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

近代文明の進歩に大きな影響を与えた工業製品であるタイプライター。その改良の歴史をひもとく連載です。木曜日の掲載です。