(菊武タイプライター博物館(1)からつづく)
菊武学園タイプライター博物館には、「Remington Standard Typewriter No.2」も展示されています。ボディに「Manufactured by Standard Typewriter M’f'g Co. Ilion, N.Y. For Wyckoff, Seamans & Benedict, New York」と記されていることから、この「Remington Standard Typewriter No.2」は、1886年から1892年までの間に製作されたモデルだと推測されます。1882年8月設立のウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社が、E・レミントン&サンズ社からスタンダード・タイプライター・マニュファクチャリング社をスピンオフさせたのが1886年3月のことで、さらに、スタンダード・タイプライター・マニュファクチャリング社は、1892年1月から5月の間に、ウィックオフ・シーマンズ&ベネディクト社および新しいレミントン・スタンダード・タイプライター社に株式を転換して解散しているからです。
初期の「Remington Type-Writer No.2」(1878年発売)と違って、この「Remington Standard Typewriter No.2」は、前面の向かって左側に、プラテン・シフト機構を補助するバネが追加されています。バネを緩めた状態では、左下の「SHIFT KEY」を押すとその後は大文字が、右上の「SHIFT KEY」を押すとその後は小文字が、それぞれプラテンの前後移動によって印字される仕掛けになっており、初期の「Remington Type-Writer No.2」と同様の動作です。一方、バネを締めた状態では右上の「SHIFT KEY」は無効になり、左下の「SHIFT KEY」を押している間だけ大文字が、左下の「SHIFT KEY」を離すとその後は小文字が、それぞれ印字される仕掛けになっています。このプラテン・シフト機構により、38キーで76種類の文字を打ち分けられるのです。
この「Remington Standard Typewriter No.2」のアルファベットのキー配列は、「M」が「N」の右横に、「C」が「X」の右横にあって、いわゆるQWERTY配列になっていました。ただ、1882年12月時点でのキー配列と比較すると、左引用符(“)と右引用符(”)がまとめられて代わりに「#」が追加され、さらに「!」が「/」になっていました。
上面のプラテンを持ち上げると、中には38本のタイプバー(活字棒)が見えます。タイプバーはそれぞれがキーにつながっており、キーを押すとタイプバーが跳ね上がってきて、プラテンを下げた状態ならば、プラテンの下に置かれた紙の下側に印字がおこなわれます。すなわち、この「Remington Standard Typewriter No.2」は、いわゆるアップストライク式のタイプライターで、プラテン下の印字面がオペレータからは見えません。ただし、1892年以前の段階では、印字面が見えるタイプライターは実用化されておらず、この「Remington Standard Typewriter No.2」も、かなり大きなシェアを誇っていただろうと思われます。