このカタカナ語、英語で言うと???

第17回 サービス(1)

筆者:
2022年2月8日

今回とりあげるカタカナ語は、「サービス」です。日本語のサービスと英語のserviceは、重なりもあるのですが、単純には置き換えられない場合もあります。「英語が話せるようになりたい」「英語を使えるようになりたい」という方、サービスとserviceはどう違うのか、いっしょに考えていきましょう!

serviceに置き換えられないとき

たとえば野菜やくだものの並ぶマーケットでりんごを買ったとき、お店の人が「このりんご、サービスだよ」といって、ひとつりんごを余分に入れてくれたとします。このセリフを英語でいいたい場合、なんというでしょうか。単純に、”×This apple is (a) service.”と思った人はいませんでしたか? 残念ながら、この場合は、サービスをserviceに置き換えることはできません。

 

「この1杯はサービスします」

「誕生日にご来店のお客様にはデザートをサービス」

「お得意様へのサービスで2割引きしておきました」

 

このように、店などがお客さんに対して無料で何かをあげる、おまけをつける、または割引きをするなど、本来の対価に含まれないものを提供するとき、日本語ではこれを「サービス」と呼びます。でも、英語でこれをserviceということは、ありません。

「この1杯はサービスします」が「店からのおごりです」という意味なら、This is on the house.のようにいうとよいでしょう。「誕生日にご来店のお客様にはデザートをサービス」の「サービスのデザート」はa complementary dessertといってもOKですし、出すときにYou can have this for free.のようにいってもよいでしょう。また、「お得意様へのサービスで2割引きしておきました」は「サービス」を無理に訳さなくても、a 20% discount for loyal customersでも、じゅうぶん伝わるかもしれませんね。正解はひとつではありませんので、工夫していってみてください。

「サービス残業」という言い方も、英語にはありません。従業員の側が無償で奉仕するという意味で「サービス」なのかもしれませんが、英語でいうならunpaid overtime workとか、off-the-clock work(タイムカードを押す時間外の仕事)などというのがよさそうです。

また、「家族サービス」「日曜ぐらいは子供たちにサービスしよう。」などというときも、serviceという語は使われません。あなたなら、「家族サービス」というとき、具体的にはどんなことをしますか? 公園で散歩でしょうか。買い物などに連れ出すことかもしれませんし、単にいっしょに時間を過ごすことかもしれませんね。サービスという語を訳すことにこだわらず、そういった具体的な行動を英語でいってみると、案外通じるものです。試してみてくださいね。

serviceと置き換え可能な場合

ここまでは、そのままserviceという語を使うことができない例をみてきました。一方で、サービスをserviceにそのまま置き換えても、おかしくならない場合もあります。

たとえば、ホテルやレストラン、店などで、気持ちのよい接客や、満足のいく食事や買い物ができたときなどは、「サービスがいい/悪い」ということができますね。このサービスは、serviceでだいじょうぶです。They offer good/poor service at that restaurant.とか、The service at that restaurant is good/poor.のようにいうことができます。

また、公共サービス、宅配サービス、クリーニングサービスなどという場合、public services、delivery service、cleaning serviceというふうに、英語でもserviceという語を使ってあらわすことができます。行政や企業などが行う業務やその種類をあらわす場合は、英語でもserviceといってよさそうです。

経済学用語としての「サービス」は、通例servicesと複数形になります。経済学では、有形の物品や商品などをgoodsという場合、無形のものをservicesと呼びます。goods and servicesは、日本語では「財とサービス」というのが定訳となっていますね。この場合のservicesは、具体的にいうと教育や医療、旅行、飲食や芸能などのことで、この直前の段落で述べたようなサービスと、内容が重なっていますね。

もうひとつ、テニスやバレーボールなどのスポーツで、1球目を打ち込むことをサーブとかサービスといいますね。これも、英語でも、serveでもserviceでもだいじょうぶです。(ただし、サービスキープ、サービスブレイクなどというときは、×service keep、×service breakとはいいません。辞書で調べてみてください。)

重なりもズレもある

多くのカタカナ語は、もとの英語の意味と日本語の意味に、そんなに大きな違いはありません。でも、微妙に意味が違うだけのものもあれば、大きくズレてしまっているものもあります。日本語のサービスにも、英語のserviceにはない意味があるということを、知っていただければと思います。

次回は、英語のserviceという語の全体像を辞書をみながら確認し、日本語との違いをさらに浮き彫りにしていきたいと思います。お楽しみに。

筆者プロフィール

武田 三輪 ( たけだ みわ)

日本語教育能力検定合格及び420時間の研修修了。外資系企業(ダイソン・ノキア等)で日本語教育に従事し、その後大手英会話スクールで日常会話、TOEIC800点コース、ビジネス英語等を担当。早稲田大学文学学術院博士後期課程中退。大学院では日本語学を修め、辞書についても研鑽を積んだ。現在はフリーランスの英会話講師として、日本語学の知識を活かした英文法、辞書指導に力を入れながら、話せるようになることに特化した指導をしている。
URL:https://www.takedamiwa.com/
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編集部から

「日本語風の発音になってはいるけど、メールはmailでしょ」
では、そのまま英語として使えるのでしょうか。
もとの英語とカタカナ語との間にズレがあるもの、そもそも英語ではないもの、カタカナ語のなかにはいろいろあります。
発信が重視される昨今、このカタカナ語、英語で言うと……そんな疑問に答える連載です。