前回、「マウント」にしても「マウンティング」にしても、「自分の優位性を誇示する」という意味合いとしては、英語ではmountという語は使わない、ということを書きました。たとえば「マウントをとられた」というとき×I was mounted.とか×He mounted me.のような言い方はしない、ということです。
また、「マウント」という語は、誇示することの他にもさまざまな意味で使われている、ということについても、少し触れました。今回は、この点について、もう少し詳しく考えてみたいと思います。「マウント」のようにさまざまな意味をもつ多義語は、辞書の中でどのようにみたらよいのか、多義語のたくさんの意味をどのように覚えたらよいか、そういったことについてお話しします。
マウントのたくさんの意味
まずは、マウントという語のもつたくさんの意味を整理してみましょう。
たとえば、写真好きの人は、マウントということばになじみがあるのではないでしょうか。カメラにレンズをとりつけること、またその台座部分をマウントといいますよね。また、写真を額に入れるとき、まわりの台紙部分のことも、マウントと呼ぶでしょう。
また、レンズに限らず、車にエンジンを搭載すること、機器類に別の機能や装備などをとりつけることをマウントといいますし、その土台となる部分のことも、マウントといったりします。
コンピューター用語としては、周辺機器を使える状態にすることがマウントです。記録媒体などの外部機器をパソコンに接続し、認識させ、操作可能な状態にすることですね。
そして、レスリングで相手の腹部の上に馬乗りになることも、マウントです。(マウントポジションといわれることもありますが、マウントポジションは和製英語です。)
それからサルなどの動物が、交尾のためや力を誇示するために他の個体の背などに乗りかかる行動は、「マウンティング」といわれます。
これらの意味はすべて、英語でもmountという単語であらわすことがでるということが、英和辞典をみると確認することができます。
辞書の読みかた
「こんなにたくさん意味があると、なかなか覚え切れない」と思ったことはありませんか? なぜ、mountというたった一語で、このようにたくさんの意味をあらわすことができるのでしょうか。こんなにたくさんの意味を覚えるには、どうしたらよいでしょうか。実際の辞書をみながら考えてみましょう。
こちらは「ウィズダム英和辞典」のmountです。
まずは、①としたところ、mountの「原義」を見てください。原義は、「山」をあらわすmountainと同じであること、そして「自動詞の用法の【2】」がmountの原義に近い意味だということが、ここからわかります。
では、②として赤で囲んだところをチェックしてみましょう。ここが「自動詞の【2】」です。ここで、mountの原義は、「登ること/上がること/なにかに乗ること」などだということが確認できますね。
このことをつかんでから、③に示したように、各ブランチの日本語の意味をざっくり追ってみてください。そうすると、どれも「登る、上がる」と関連があるか、「上に置く/乗る/乗せる」のようといった意味から発展したものだ、ということが見てとれるのではないでしょうか。
単語の意味は、たくさんあるようにみえても、互いにまったく関係ないということは、まずありません。語の意味というものは、使われているうちに基本の意味からズレてくることがあります。また、比喩的な表現がくりかえし使われるうちに、みなが理解する意味として定着することもあるでしょう。多義語というのは、そのようにできているのです。
辞書の中にブランチがたくさん並んでいると、たくさんの意味がバラバラに書いてあるように感じられるかもしれませんが、それらはみな、基本の意味から広がっていったものです。原義が書かれていない単語もたくさんありますが、まずは「基本の意味はどこにあるか」に見当をつけ、そこから意味の広がりをつかんでいくようにすると、その単語のおおまかな使い方がつかみやすくなるのです。
辞書を引くとき、たくさんある意味の1行目だけをみて満足してしまってはいませんか? または、たくさんある意味を1番から順に、ぜんぶ暗記しようとしてはいませんか? これらは英語を「使う」「話す」といったことを目指す場合、どちらも効率のよいやりかたとはいえません。中心義を探し、そこからの広がりが見えれば、理解が深まる上に、暗記の量がぐっと減りますよ。試してみてくださいね。
〈出典〉
- 三省堂『ウィズダム英和辞典 第4版』 iPhoneアプリ「辞書 by 物書堂」版 (2019)