春日野の雪間(ゆきま)を分けて生ひ出でくる草のはつかに見えし君はも
出典
古今・恋一・四七八・壬生忠岑(みぶのただみね)
訳
春日野の残雪の間をおしわけてわずかに萌え出てくる若草、その若草のように、ほんのわずかにお見かけした初々しいあなたでしたよ。
技法
初句から「草の」までが序詞で、「はつかに見えし」を導く。
参考
『古今和歌集』の詞書によれば、春日祭に出かけたとき、祭り見物に出ていた女性の姿をちらっと見て、その女性に贈った歌ということになる。序詞の中の「雪間を分けて生ひ出でくる草」は、ちらっと見かけた女性の初々しいイメージをも表しているとみられる。
(『三省堂 全訳読解古語辞典 第四版』「かすがののゆきまをわけて…」)
◆参考情報
恋歌の巻は、恋の「始まり」から「終わり」までを、いろいろなパターンごとに詠み綴った、いわば恋のカタログのように構成されています。この「春日野の…」歌は、「ちらりと相手の姿を見た」ことで始まった恋のパターンのうちの一首です。
「はつか」を『全訳読解古語辞典』で引くと、「視覚や聴覚に感じられる度合いが少ないさま。ほのか。かすか。」という意味のほかに、以下のように「関連語」の欄が付いており、似た意味の古語を比較して語のニュアンスを感じとりながら勉強を深めることができます。
[関連語]「はつか」が視覚や聴覚に感じられる度合いの少なさが中心なのに対し、同義語の「ほのか」は、音・形・火・光などそれ全体がはっきりせず、ぼんやりしていることをいう。また、「わづか」は数量が少ない、程度が小さいことをいう場合に用いた。中世以降「はつか」は「わづか」と混同され、「はつか」は消滅に向かう。