古語辞典でみる和歌

第7回 「つくばねの…」

2014年12月2日

つくばねの峰より落つるみなの川恋ぞつもりて淵(ふち)となりぬる

出典

後撰・恋三・七七六・陽成院(やうぜいゐん)/百人一首

筑波山の峰から流れ落ちるみなの川の、その浅瀬がやがて深い淵となるように、あなたを思う私の恋も、積もり積もって深い淵となってしまいました。

「淵となりぬる」の「ぬる」は、完了の助動詞「ぬ」の連体形。係助詞「ぞ」の結び。

参考

『後撰和歌集』の詞書(ことばがき)によれば、「釣殿(つりどの)のみこ」と呼ばれた、光孝天皇の皇女綏子(すいし)内親王に贈った歌。深まりゆく恋情と、筑波山の峰から流れ落ちる水がやがて底知れぬ淵となるという景によって表出している。「つくばね」は歌枕。

(『三省堂 全訳読解古語辞典』「つくばねの…」)


◆参考情報

和歌に詠まれる諸国の名所を「歌枕」といいます。歌枕となる名所には、たとえば「吉野」といえば雪や桜を連想するように、先行する和歌によって特定のイメージが付与されています(→『三省堂 全訳読解古語辞典』1354p「古典の基本的修辞」の「歌枕」)。

今回取り上げた「筑波嶺(つくばね)」とは、現在の茨城県にある筑波山のことですが、山頂が男体山・女体山の二峰に分かれており、また「歌垣(うたがき)(古代、春と秋に男女が集まり、互いに歌をうたいかけ合ったり、踊り合って楽しんだり、求愛・求婚したりした行事)」の場として有名であったため、古来、「恋」のイメージが蓄積されてきた歌枕でした。

筆者プロフィール

古語辞典編集部

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