タイプライターに魅せられた男たち・第21回

フランク・エドワード・マッガリン(11)

筆者:
2012年1月12日

公職を失ったマッガリンは、なんと、銀行家に転身をはかりました。以前から書記を務めていたSLB&LA (Salt Lake Building & Loan Association)の取締役を引き受けたのです。SLB&LAは元々、非LDS系の金融機関だったのですが、マッガリンが取締役となったことで、「反モルモン」の立場を鮮明に打ち出しました。この結果、LDS系の銀行や団体あるいは個人との間で、怪文書の応酬による中傷合戦を引き起こしてしまいます。マッガリンは「ゴリラ顔のボス」と揶揄されながらも、それに負けないくらいの中傷文書を次々とタイプしていたようです。

1895年3月4日、マッガリンは、ユタ州憲法起草議会に出席していました。州憲法の制定は、ユタ準州を州に昇格させるために不可欠なものでした。LDSのスミス(John Henry Smith)を中心とする起草準備委員会は、あえてマッガリンを、起草議会の公式速記者に指名したのです。ただ、この頃のマッガリンは、中傷文書や借金取立にまつわる裁判を、数多く抱えていました。そのため起草議会は、1895年3月20日、マッガリンに関する非常に個人的ともいえる決議案を議論しています。当日の議事録から、やりとりを見てみましょう。

ウェルズ 速記者に関する以下の決議を、議会の満場一致で採択されることを望みたい。それでは読み上げる。
「フランク・E・マッガリンが当議会の唯一人の公式宣誓速記者であることにかんがみ、また、彼の日々の議会への出席が当議会の運営において必要不可欠であることにかんがみ、また、彼がソルトレークシティの第3地方裁判所において証人として出頭を求められていることにかんがみ、当議会は、裁判所がマッガリンの出頭をできる限り早く免除するよう求めることを決議する、それとともに、この決議の写しを裁判所に即日交付するための委員会を議長指名で組織することを決議する」
エバンス この決議に一つ付け加えたい。ごらんのとおり、欠席しているF・E・マッガリンの席には、今現在、彼の弟(Frederick T. McGurrin)が座っている。F・E・マッガリン不在の際には、F・T・マッガリンが公式速記者の任にあたる、という動議を提案したい。
ウェルズ 私に異議はない。
ジェームズ それは決議の追加なのか。
エバンス はい、そうです。彼が不在の時には、彼の場所は彼の弟が占めるという追加です。
スカイヤーズ その追加を受け入れると、裁判所に交付される決議の写しには「マッガリンの席には代わりの者が座っている」ということが書かれていて、裁判所としてはマッガリンを放さないだろう。一方、その追加を別々の決議にするならば、もちろん同じ結果になる可能性もあるのだが、マッガリンの席が埋まっているかどうか裁判所に知らせなくていい。
エバンス それまでは公式速記者が不在ということになりますが。
サーマン この決議に何の意味があるのだ。彼は当議会の公式速記者で、裁判所での用がすめば大急ぎで戻ってくるし、裁判所に対しても「議会で仕事がある」と疎明するだろう。こんな決議で議事録をいっぱいにすることに、何か意味があるとは思えない。彼の弁明は既になされたし、欠席の理由書も提出された。この決議に、私は反対する。不必要だからだ。全く不必要だからだ。
バリアン 私の理解する限り、裁判所は現時点では何も知らない。どちらかの訴訟代理人がマッガリン氏を召喚したので、彼は裁判所に出向いて、法廷に証人として呼ばれるのを待っているというだけのことだ。この問題が裁判所の知るところとなったなら、何らかの手はずが整うだろうことは想像に難くない。それによってマッガリン氏は、とりあえず証言台から遠のくだろう。それはごく普通のことだし、また、当議会がそれを強く主張するなら、裁判所が議会議員を召喚できないのと同様に、裁判所は議会の事務方を召喚したりはしないだろう。
キンボール ウェーバー郡代表(エバンス)の追補に、さらなる追補を提案したい。
「当議会の公式速記者が、不可避の理由で議会に出席できない場合、十分な技量を持つ代理の速記者を任命する権限を、当議会は公式速記者に与えるものとする」
   この動議は承認された。
バリアン 元々の決議案は、見たところ矛盾があって不条理だ。また、追加の提案だか決議だかも、支持されていない。これらの理由により、残る問題すべてを棚上げにすることを提案する。
   この動議は承認された。
バトン それならば、最後の追補を維持するために、3分の2以上の再可決が必要なのではないか。
スミス議長 その必要はない。

66日間の議論の後、1895年5月8日、ユタ州憲法草案は完成しました。マッガリンも、最後まで公式速記者を務めあげました。重婚の禁止をうたったユタ州憲法は、その後、ユタ州成立(1896年1月4日)を担う一翼となったのです。

(フランク・エドワード・マッガリン(12)に続く)

筆者プロフィール

安岡 孝一 ( やすおか・こういち)

京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センター教授。京都大学博士(工学)。文字コード研究のかたわら、電信技術や文字処理技術の歴史に興味を持ち、世界各地の図書館や博物館を渡り歩いて調査を続けている。著書に『新しい常用漢字と人名用漢字』(三省堂)『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版)『文字符号の歴史―欧米と日本編―』(共立出版)などがある。

https://srad.jp/~yasuoka/journalで、断続的に「日記」を更新中。

編集部から

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