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第24回 【航続距離】こうぞくきょり

筆者:
2021年8月30日

[意味]

船舶・航空機・電気自動車などが、一度蓄えた燃料や電力だけで、航行や運転を継続できる距離。(大辞林第4版から)

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「自動車各社は1回の充電で走れる航続距離を延ばすために車載電池の容量を増やしつつある」――。自動車が走行できる距離を「航続距離」とする新聞記事をよく見ます。「航」の字があるとおり、もとは船舶や航空関係の専門用語だったため、20年くらい前に初めて見たときは違和感を持ったものですが、いまではすっかり定着しました。

記事データベースを使い、日本経済新聞で「航続距離」の出現記事を検索してみたところ、1990年代半ばまでは軍用機や船舶についての記事で多く使われていました。当時は国語辞典を見ても「船舶・航空機が一度搭載した燃料だけで航行を継続できる性能」(大辞林第3版)とあるなど、自動車に触れるものはありません。それが自動車関係の記事でも徐々に使われ、2010年代に一気に使用例が増えると、三省堂国語辞典が第7版(2014年)で「自動車にも言う」との注記を入れました。このころが自動車の「航続距離」が認知された時期といえるのかもしれません。

電気自動車(EV)の開発が進む1990年代後半から自動車関係の記事で使われ始めた「航続距離」。脱炭素が求められる2000年代に数は増えます。2010年に使用例が全体の過半となり、2020年には85%を占めるまでになりました。EVや燃料電池車(FCV)が「1回の充電(燃料充塡)で走れる距離」を一言で表すには欠かせず、船や航空機よりも「車の言葉」の印象が強まっています。

2000年以降の新聞記事を見ると、数は少ないですが電動スクーター、電動補助自転車、車椅子、キックボードなどでの使用例も見られます。こうなってくると、自動車うんぬんではなく、燃料や電力で走る「乗り物」全般に使える語になりつつあるようです。国語辞典の記述もさらに変わっていくのでしょうか。

 

「【航続距離】こうぞくきょり」の登場記事件数

*日本経済新聞の記事を調査。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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