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第23回 【二人三脚】ににんさんきゃく

筆者:
2021年7月26日

[意味]

①二人一組で並び、互いの内側の足首を結んで、二人で三本足のようにして走り合う競走。運動会などで行われる。②二人が歩調を合わせ共同で物事を行うことにいう語。(大辞林第四版から)

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東京五輪に「二人三脚」が登場する――。当然ではありますが競技としてではありません。五輪関係の記事で、おそらく四字熟語として二人三脚が多く使われるのではないかとの予想です。

学校の運動会で皆さんおなじみの二人三脚ではありますが、卒業すればなかなか関わる機会はありません。新聞で見る二人三脚も、①の競走の意味で使われることはほとんどなく、「社長と専務が会社を二人三脚で発展させてきた」のように、比喩的に②の意味で使われる事例が多くなります。日本経済新聞の場合、特に企業経営に関することでの使用が目立ちます。

5年前、リオデジャネイロ五輪の関係記事から四字熟語を採集しました。伝統的なものや新四字熟語と思われるものも含め148語(112種)を拾い、そのなかで最も多かったのが「二人三脚」でした。出てきたのはメダリスト6人の記事で、主役は女性アスリート。二人三脚の相手は母親、父親、コーチに寮母さんなどさまざまで、メダリスト誕生までの過程には、陰で支える伴走者の存在が大きいということなのかもしれません。

ほかに採集したものを挙げると、「絶対女王」「前人未到」(伊調馨選手、レスリング)、「絶対王者」(内村航平選手、体操)、「破顔一笑」(白井健三選手、体操)、「武者修行」(羽根田卓也選手、カヌー)などがありました。今夏の大会ではどんな語に出合えるでしょうか。

円満字二郎さんの『四字熟語ときあかし辞典』(研究社)によれば、競走としての二人三脚は欧州が起源で、日本には明治になってもたらされたもの。比喩的用法が見られるのは遅くとも大正時代なのだとか。1000年以上の歴史を持つ四字熟語があるなかで、約100年の「二人三脚」はまだまだ新しいものではありますが、東京五輪・パラリンピックに欠かせない表現として記事に登場することでしょう。

 

「【二人三脚】ににんさんきゃく」の登場記事件数

*日本経済新聞の記事を調査。

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新四字熟語の「新」には、「故事が由来ではない」「新聞記事に見られる」「新しい意味を持った」という意味を込めています。

筆者プロフィール

小林 肇 ( こばやし・はじめ)

日本経済新聞社 用語幹事・専修大学協力講座講師。金融機関に勤務後、1990年に校閲記者として日本経済新聞社に入社。長く作字・フォント業務に携わる。日経電子版コラム「ことばオンライン」、日経ビジネススクール オンライン講座「ビジネス文章力養成講座」などを担当。著書などに『マスコミ用語担当者がつくった 使える! 用字用語辞典』(共著、三省堂)、『謎だらけの日本語』『日本語ふしぎ探検』(共著、日経プレミアシリーズ)、『文章と文体』(共著、朝倉書店)、『日本語大事典』(項目執筆、朝倉書店)、『大辞林 第四版』(編集協力、三省堂)、『加山雄三全仕事』(共著、ぴあ)、『函館オーシャンを追って』(長門出版社)がある。2018年9月から日本漢字能力検定協会ウェブサイト『漢字カフェ』で、コラム「新聞漢字あれこれ」を連載中。

編集部から

四字熟語と言えば、故事ことわざや格言の類で、日本語の中でも特別の存在感があります。ところが、それらの伝統的な四字熟語とは違って、気づかない四字熟語が盛んに使われています。本コラムでは、日々、新聞のことばを観察し続けている日本経済新聞社用語幹事で、『大辞林第四版』編集協力者の小林肇さんが、それらの四字熟語、いわば「新四字熟語」をつまみ上げ、解説してくれます。どうぞ、新四字熟語の世界をお楽しみください。

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